注文
食料合成機に全員が額を集め、おのおの八咫烏に注文を始めた。
八咫烏は合成機を操作して、片方の首を振り向けて口を開いた。
「何をお食べになりますか?」
乱子が最初に答えた。
「トチメンボーをお食べになるよ」
双子姉妹の香奈枝と多満江が、ピョンピョン小刻みに飛び跳ね、大きな声で叫んだ。
「あたしたち、アカチパラチにする!」
奈美代は八咫烏に尋ねた。
「ラーメンなんて、あるのかしら?」
八咫烏はぐいっと首を上げて、昂然と答えた。
「御座いますよ。醤油味、塩味、みそ味何でもあります」
「それじゃとんこつ味の、ニンニク野菜マシマシ、チャーシュー抜きでお願い」
装置を操作しながら、八咫烏は麗華に話し掛けた。
「あなたのご注文は?」
麗華は面倒臭そうに答えた。
「食えるなら、何でもいいよ」
「それでは今ご用意できますのは、各種肉料理、ベジタリアン向けの料理と、その他各国の地方料理のようなもので……」
「それじゃ、最後にあんたが言った〝のようなもの〟を頼む」
「はあ~っ?」
八咫烏は両方の目玉を向き合わせ、焦ったような口調で答えた。
「お揶揄いになっては困ります」
麗華は肩をすくめ、仕方なさそうに装置のディスプレイの文字列を指さした。
「ああ、もういいよ。それじゃ、そこにある特大ステーキをもらおう」
「ステーキ……ですか」
八咫烏は、嫌そうに答えた。
麗華はぐいっと片方の眉を上げた。
「何か文句でも?」
「いや、別に……」
八咫烏が装置を操作すると、麗華の注文した特大ステーキが、即座に出現した。途端に、あたりに肉の焼ける匂いが充満し、八咫烏は閉口したように首を一杯に仰け反らせた。
パペッティア人は完全なベジタリアンで、肉は一切、口にしない。従って肉料理が近くにあるだけでも苦痛なのだ。
八咫烏は、三人の巨乳メイドたちに振り向いた。
「あなた方も、お肉料理ですか?」
「そうねえ……」
どうやらリーダー格らしいユミが、ぺろりと唇を舐めた。
「あたしお寿司がいい!」
エヴァが手を挙げ、叫んだ。
「あたしはオムライス!」
ルーナがすかさず口を挟みこんだ。
「それじゃあたしはカレーライスにする」
最後にユミが宣言し、八咫烏は明らかにほっとなった。どの料理にも肉が入っているが、ステーキのような、いかにも、の感じがないので、パペッティア人には安堵できるのだろう。
僕も注文しようと思って、八咫烏に近づくと、ユミがぱっと笑顔を見せて、僕に話し掛けた。
「ねえ、キモタクさん。あたしたちとご飯、一緒にしない?」
「えっ?」
僕はちょっと身構えた。




