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テレパシー

 僕も参加しようと一歩前へ出ると、突然キョロの言葉が頭の中に響いた。


 ──待て、キモタク。お主に話がある!──


 キョロの言葉は、僕の頭の中に直接達しているようで、他の皆はまるで気づいていない。僕はキョロと同じように、頭の中だけで返事した。


 ──何だよ、キョロ。まだ何か言い足りないのか?──


 もちろん、キョロの呼び掛けは、テレパシーに決まっている!

 こんなことは、SFファンの僕にとっては先刻承知だ。驚くことじゃない。キョロは自分で宇宙生命体だと宣告しているじゃないか!

 キョロの思考波は笑いを含んでいた。


 ──さすがだな。吾輩のテレパシーに、一切驚かないとは……。お主に忠告しておきたいことがあるのだ。──

 ──忠告?──

 ──左様。吾輩はこのパラレルワールドが、お主の妄想から生まれたと説明したな?──

 ──うん。今でも信じられないけど、それが何か?──

 ──お主、不思議に思わぬか? この世界にお主のせいで連れて来られた、あの女子全員が、未だにパニックにもならず、平然とこの事態を受け入れていることを。──

 ──そういえば、そうだね。特に、あの双子なんか、小学生じゃないか! お家に帰りたい! と泣き叫んでも不思議じゃないのに。──

 ──お主はそんな事態、望まぬであろうな?──

 ──もちろんさ! 本当なら全員、僕を責め立ててもおかしくない……ちょっと、待て!──


 僕は恐ろしい予感に、立ち竦んだ。

 恐る恐る、キョロに尋ねた。


 ──僕が望まないから……まさか!──

 ──その通り! お主が望まないから、彼女たちはパニックにもならず、平静でいられるのだ。さらに言うと、彼女たち、この世界に転移するとお主たちの好みの美女、美少女ばかりに変身している。しかもその変身にまるで気づいていない。どうだ、面白いとは思わないか?──


 僕はこっそり、八咫烏の説明に聞き入っている乱子の横顔を盗み見た。

 記憶にある、乱子の本当の横顔は、今の彼女とはまるで別人だ。

 乱子の周囲に立っている、麗華、奈美代、メイド三人組……すべて最初に見た時とは一変している。全員、僕好みの、美女、美少女に変身している。

 僕が望んだから……。

 キョロのテレパシーが、僕に突き刺さるように頭の中で響き渡った。


 ──お主の妄想が、次々とパラレルワールドを変化させている。これからお主の妄想する力は、この世界で最強、無敵の力を持つだろう。が、気を付けることだ。さっきも忠告したが、それは魔法とは違う。思っただけで、すぐに現実化するわけではない。お主の妄想は、予想すらできない結果を招来するだろう。──


 僕の中にじんわりと恐怖感が育った。

 キョロの言葉は、ある古いSF映画を思い出させたからだ。


 ──それって、まるで「禁断の惑星」のイドの怪物みたいじゃないか? もしかして、僕は自分の妄想に殺されるなんて、有り得るのかい?──


「禁断の惑星」とは1950年代の、古いSF映画だ。

 イドの怪物とは、人間の潜在意識を指し、人間が持つ様々な欲望や恐怖、怒りが顕在化したものだ。このイドの怪物で、重要な登場人物は悲劇的な最期を遂げる……。

 付け加えると「ドラゴンクエスト」シリーズに登場する「いどまねき」という怪物は、このイドの怪物からきている。

 ……と僕は、勝手に思っている……(汗)。

 キョロは僕の心配を、完全に否定してくれた。


 ──そういうことにはならない。吾輩が理解することによれば、お主の妄想は、お主を害することにならないだろう。無意識にせよ、お主が拒否するような状態は、避けることができるからだ。吾輩が忠告したいのは、これから引き起こされる事態が、結局のところお主の妄想が産み出したことを覚悟することだ。──


 キョロのテレパシーに、納得しかけた僕だったが、一つ気になることがあった。


 ──判った。でも、乱子は未だにSFの話、馬鹿にしているぞ。僕が望むなら、SFを好きになってもいいんじゃないか?──


 キョロの返事は、笑いを交えたものだった。


 ──そんなこと、吾輩が知るわけない。だが、一つ言えるのは、もし彼女がキモタクの望みのままに、SFマニアになったら、お主の妄想パワーは消えてしまうことが考えられるな。乱子のSFへの反感は、キモタクの妄想パワーの源泉なのかもしれぬな。──


 うわー! 何だが有難いような、有り難くないような……。

 ということは、乱子がいないと、僕の妄想パワーは弱まってしまうのか?

 もう一つ、気になることがあって、僕はキョロに尋ねた。


 ──でも、なんで今になってそんなこと、僕に明かすんだ?──


 キョロの返事は、僕にとって驚くべき内容だった。

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