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可能性

 いつの間にか、僕らは元のゼネラル・プロダクツ製三号船殻に戻っていた。

 ん?

 誰かが、僕の腰のあたりにしがみついているぞ。

 視線を落とすと、何と! あの双子の姉妹が、僕の腰あたりに、ひし! としがみついていた。

 僕は大きく息を吸って、強いて落ち着いた声を作って二人に声を掛けた。

「大丈夫だよ。心配ない」

 二人はきつく瞑った両目を、恐る恐る見開いて、僕の顔を見上げた。

「御免なさい……」

 二人はちょっとはみかんだ笑みを浮かべ、ゆっくりと僕の身体から離れた。

 いやいやいや……。

 別に謝る必要はないんだよ……。

 もっとしがみついても、良いのにな……。

 ううううう!

 いかん!

 これでは本当に、ロリコンになってしまう。

 周囲を見回すと、パペッティアの八咫烏が、身体を丸め、蛇のような首を自分の腹に巻き込んで、外界を閉め出していた。

 パペッティア人は、あまりに強烈な衝撃を受けると、本能的にこのように体を丸め、外界を拒否する性向がある。

 ははあ!

 ラリイ・ニーヴンの小説で読んだ通りだ!

 ふと気づくと、キョロが真っ直ぐ僕の顔を見詰め静かに待っている。

 おいおい、キョロ。そんなに僕の妄想力が凄いって……?

 それ、誉め言葉かよ!

 何だか馬鹿にされてる気がするぞ……。

 はいはい、僕は一日中、下らない妄想を重ねていて、他人とうまく付き合うことが苦手なSFマニアですよ!

 その僕の妄想が、パラレル・ワールドを産み出しただって?

 妄想で世界を変化させるなんて、そんなアイディアのSFあったかな?


 フィッリプ・K・ディックの「宇宙の眼」とかクリストファー・プリーストの「ドリーム・マシン」とか……あとキース・ローマーもそんな話、書いてたような気がする。

 そんなことをボーっと考えていたら、乱子が「もう、我慢できない!」と言いたげな様子で、地団太を踏んで叫んだ。


「キョロ! あんた、無事な地球があるって言ったわね。それじゃ、その無事な地球に、あたしたちを連れていくことは出来ないの?」

 キョロはゆっくり、首を振りながら答えた。

「そちらの地球では、本来の君たち……もう一人のキモタク、もう一人の乱子が、いつもと同じ生活をしている。そこに君らを連れて行ったらどうなる? それに吾輩は、太陽系を救うため、全エネルギーを使い果たし、今は抜け殻にすぎん。数億年分の知識も失い、この猫の身体が唯一の財産だ。もう時間流を遡ることも出来んし、並行宇宙へ旅することも出来ない……」

 キョロの返事に、乱子は絶望的な表情を浮かべた。


 その時、ずい! とばかりに奈美代が一歩前へ出て、キョロに向かって話し掛けた。

「ねえ、この世界は、キモタクさんが産み出したパラレル・ワールドと言ったわね?」

 キョロはしたり顔で頷いた。

 猫のしたり顔!

「左様。このリングワールドは、キモタクの妄想により存在するパラレル・ワールドである!」

 奈美代はちょっと眼鏡を触ると、考え考え、話を続けた。


 うおお……彼女の眼鏡を触るポーズ、物凄く可愛い!


「ということは、このリングワールドには、キモタクさんが妄想した色々な世界が同時に存在し得るわね……」

 キョロは居住まいを正し、奈美代に向かい合った。

「お主は何を言わんとしておるのか?」

 奈美代は僕に顔を向け、まっすぐ僕の眼を見詰めて口を開いた。

「キモタクさん。あなた、元の世界に戻りたいと思ってる?」

「そ、そりゃ……」

 僕は口ごもった。

 元の世界に戻りたいか──正直に言うと、あまりそんなことは考えたことはなかった。何しろSFマニアにとっては、信じられないほどの出来事が次から次へ発生し、ホームシックなんか、感じる暇もなかったからだ。


 さて、僕は元の世界へ戻りたいのだろうか?

 ──。

 そうだ!

 僕は元の世界へ戻らなければならない、重要な理由があったことに気が付いた。

 なぜって、それは「銀河番長ガンガガン」の続きをどうしても観たいからに決まってる!


 僕は奈美代に向き合い、深く頷いた。

「うん、僕は戻りたい。どうしても!」

 奈美代は晴れ晴れとした笑みを浮かべ、頷き返した。

「それなら、希望はあるわ! キモタクさんが、戻りたいと強く思っていれば、あたしたちも戻れる可能性がある」

 乱子が疑い深そうな口調で、奈美代に問い掛けた。

「どうして、キモタクが戻りたいと思わなければならないのよ?」

 奈美代は乱子に説明を始めた。

「このリングワールドは、キモタクさんの想像力で出現したんでしょう? だから、ここには、キモタクさんが想像した色んなものが出現している可能性があるわ」

 僕は奈美代に向かって、話し掛けた。

「それじゃ、僕が元の世界へ戻りたいと思ったら、それが叶えられるというのか? まるで魔法のように」

 奈美代はそれには答えず、キョロに顔を向けた。キョロはしきりと前足の肉球を舐め、顔の掃除をしていた。満足したのか、キョロは顔を上げ、話し始めた。

「可能性はあるな! しかしキモタクが言ったように、魔法のように突然、我らが元の世界の入り口を見つける、というわけにはいかないだろう。このリングワールドのどこかに、そのヒントが隠されていると思うが」

 乱子はぐっと身を乗り出した。

「このどこかに……って、どこよ?」

 乱子の質問に、僕と奈美代、キョロは顔を見合わせ黙り込んだ。

 そうだ、僕らはこのリングワールドの世界で、どこを目指せばいいんだろう?

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