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パペッティア

 原作では「三本足のケンタウルスに、二本の蛇の首が生え、その先に柔らかな口と一つ目がついた怪物」とされている。

 三本の足には蹄があって、歩くたびにポクポク、ポクポクと軽い音を立てた。蹄は草食の証拠で、パペッティア人は普段、ニンジンなどの野菜しか口にしない。

 二本首の一つの口が開き、柔らかな女性の声で話し掛けて来た。

 発音は正確で、口調は滑らかだった。パペッティア人は語学の達人で、ありとあらゆる言語を修得している設定だ。日本語も、レパートリーの中に入っているのかもしれない。


「あなた方は、二十世紀から二十一世紀にかけての、古代日本語を喋っていますね。わたしの知る限り、古代日本語は地球では死語になっているはずですが」

 それまであんぐりと口を開いていた乱子が、ぐいっと前へ出て答えた。

「だって、あたしたち、日本人よ! 当たり前じゃない……。それより、そんな操り人形で胡麻化さないで、本当のあんた、出て来なさいよ! これ、ドッキリでしょ?」

 乱子は叫びながら、部屋の中を忙しく見回した。多分、カメラを探しているのだ。この状況をドッキリカメラだと断定するとは、かなり飛躍しているなあ、と僕は思った。

 パペッティア人は、乱子の返答に戸惑うこともなく、冷静に続けた。

「外部のマイクで、あなた方の話の内容を聞き取ったのです。それで古代日本語だと判ったのですが、どうやらお互い誤解があるようです。詳しくお話をする必要がありますね。それに付け加えますと、わたしは操り人形ではなく、れっきとしたパペッティア人です」

 乱子は恐々と前へ出て、パペッティア人の上の空間に手を伸ばした。

「嘘! 糸がない! それじゃ、本物……?」

 目を丸く見開き、顔色を青くして後じさった。


 奈美代がちょっと腰を低くして話し掛けた。

「あなたはパペッティア人ね。それじゃ、ネサス、キロンどちら?」

 二つの首が、ぐいっと持ち上がり、奈美代をしげしげと観察した。

「どうしてその名前を? その二人は、確かにパペッティアの、地球人渉外係を承っております。古代日本人のあなた方が、彼らの存在を知っているはずがないのですが」

 そこでちょっとパペッティア人は、両方の目玉を向き合わせ、間を取ると再びこちらに向き直って続けた。

「それではわたしのことは八咫烏(やたがらす)と呼びなさい。あなた方は日本人なので、その方が良いでしょう」


 ネサス、キロンとは、ラリイ・ニーヴンの短編や、長編で時折登場するパペッティア人の名前だ。パペッティア人の本名は、地球人には発音不可能なので、便宜上地球の神話から名前を採用するということにされている。このパペッティア人が自分を「八咫烏」と呼べと言ってきたのは、僕らが日本人だから、日本の神話である「日本書紀」からこの名前を選んだのだろう。

 八咫烏は三本足の鳥で、日本神話に登場する。ただし、そんなこと一般的な日本人が知っているかどうかは別だ。僕はSFファンなので、ファンタジーに近い、日本神話にも興味があってその知識があったが、他の仲間も承知しているかは分からない。

 ラリイ・ニーヴンに「日本書紀」の知識があったら、きっと八咫烏という名前をパペッティア人に採用したろう。

 僕は笑いながら、八咫烏に向かって説明した。

「だって小説に書かれているからね。ほら、この本だ」

 僕はバッグの口を開き、中から「リングワールド」と「リングワールドふたたび」の二冊の文庫本を取り出した。

 八咫烏は、蛇のような首を伸ばして、僕の手から文庫本を受け取った。口には幾つかの瘤のような突起があり、それが指のように動いて器用にページを繰っている。

 ページの閲覧は素早く、いわゆる普通の「速読術」より猛烈なスピードで八咫烏は二冊を読み進んだ。

 総てを読み終わるのに、三分もかからなかった。読み終わると、八咫烏はぶるぶると全身を震わせた。

「これは要するに、架空の話ですね。パペッティア母星(プライム)のことも、人類空域のことも、事細かに書かれています。しかし、これはただ一人の作家による空想による産物なのです。では、わたしの存在は、どのように考えればいいのでしょう?」


「それには吾輩が説明しよう!」

 突然の甲高い声に、僕らは声の方向に注目した。

 そこにはキョロがいた!

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