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ツイスター・ゲーム

 地面が大きくえぐられ、深々とした谷のようになっている。えぐられた地面からは、灰色のガラスのような光沢のある、半透明の物質が剥き出しになっていた。谷のような地形は、ずっと遥か彼方まで続いていた。

 僕は思わず叫んでいた。

「スクライスだ! 本当にあった!」

 乱子は不思議そうな表情になった。

「それ、何?」

 僕は興奮して、乱子に説明した。

「リング・ワールドの構成物質だよ。あの、半透明のガラスのようなものが、スクライスっていうんだ。つまり、ここは、ラリイ・ニーヴンの小説にあるリング・ワールドそのものってことだ!」


 目の前に広がる、谷のような地形は、「リング・ワールド」という小説の、主人公の乗り込んだライヤー号という宇宙船が不時着した跡だ。ライヤー号は物凄いスピードでリング・ワールドに衝突し、地面を深々とえぐって、眼前の谷のような地形を残した。


 乱子は「呆れた!」と言いたげな表情になった。

「ねえ、正気になってよ。あんた、さっきからここが小説の世界そのものだって言っているけど、どうしてそんなことが起きるのよ?」

 乱子に問い詰められると、僕も言葉を失う。

 そうだ。

 なんで、こんな世界に、僕らが放り込まれたんだろう?


「あんたたち、このあたりに詳しいの?」

 不意に、ミリタリールックの女性が話し掛けて来た。表情は真剣で、乱子のような馬鹿にした態度ではなかった。

「詳しいとは……ただ、本で読んだ通りだな、と思っただけで」

 正直に答えると、彼女は頷いた。

「それだけでも良いわ。少しでも事情を分かっているなら、これからどう行動すべきか判断できるでしょう?」

 これからどう行動するか……!

 言われて僕は、改めて小説の内容を思い浮かべた。


 僕は眼鏡女子に向き直った。

「ねえ、ここがライヤー号の不時着跡だとすれば、この先に宇宙船があるんじゃないか?」

 眼鏡女子は頷いた。

「かもね。そしてパペッティア人も……」

 僕らの会話に、ミリタリールックは目を瞠って問い掛けた。

「パペッティア人? それは誰?」

 眼鏡女子がすらすらと答えた。

「小説に登場する、宇宙人です。三本足で、二つの首を持つ草食の宇宙人で、宇宙で一番臆病者と言われています」

 眼鏡女子の答えを聞いていた乱子は、嘲りの笑い声を上げた。

「宇宙人! 宇宙船? まあったく、あんたたち、本気でそんなこと信じているの?」

 ミリタリールックはゆっくり首を振り、乱子に向かって真面目な口調で話し掛けた。

「そう頭から否定することもないと思う。今のところ、この場所についての知識を持っているのは、この二人だけみたいだし……ともかく、この先に何があるか確かめてもいいんじゃない?」

 諄々と諭され、乱子は黙り込んでしまった。しかし不満そうに、頬をぷーっと膨らませている。


 すると僕らの足元をするりとすり抜け、キョロが谷の底へ飛び降りていった。

「あっ! キョロちゃん!」

 双子姉妹が叫び声をあげ、キョロの後から谷底へ駆け足で降りていく。速足で灰色のつるつるした谷を進んでいくキョロと、小さな双子姉妹はあっという間に遠ざかった。

「さてと、とにかくわたしたちも追い掛けないと、あの二人が心配ね!」

 ミリタリールックは呟くと、大股で谷底へ降りていった。降りていく彼女は、あの巨大な旅行トランクを片手に、軽々とした足取りで歩いていく。トランクの車輪は大きめで、引きずると、ゴロゴロと大きな音を立てた。

 乱子は諦めたように叫んだ。

「しょうがない! 他に行く処もないしね……」

 ぴょん、とひと飛びで谷に降りると、大股になって歩き出した。

「あたしたちも行きませんか?」

 眼鏡女子に話し掛けられ、僕は我に返った。

 そうだ、こうしちゃいられない!

 僕と彼女は、そろそろと用心深く谷底へ降りていった。


 スクライスは小説に書かれた通り、溶けたガラスのような材質で、滑りやすかった。

 やっと谷底に降りた途端、上から悲鳴が降ってきた。

「きゃあ~~~っ!」

 悲鳴は三人分だった。

 何事かと、見上げると、あの三人のメイド少女たちが、ひと固まりになって谷の斜面を滑ってきた。

 避ける暇もなかった。

 僕は上から滑り落ちてくる三人の下敷きになり、仰向けに倒れてしまった。

 しかも僕の顔に、三人の胸がぎゅーっ、と押し付けられている。

 前にも記したように、彼女たちの胸は巨大で、ほとんど顔と同じくらいの直径と重みがあった。僕の顔の左右、そして後頭部に、三人の柔らかな胸が押し付けられ、僕は一瞬、気が遠くなった……。

 いや、そのお、変な意味じゃないよ!

「ごめんなさあい……」

 三人は口々に謝罪の言葉を言いながら、じたばたと立ち上がろうとする。しかしどういうわけか、三人の手足が僕の手足と絡み合い、僕が立ち上がろうとすると、三人がどて、ばたん! と僕の手足を引っ張る格好になった。

 三人の女の子と、ツイスター・ゲームをやったことがあるだろうか? 僕の状態を一言で表すと、そうなる。ともかく、起き上がろうと焦れば焦るほど、彼女たちの手足が絡み合い二進も三進も行かない……。

 そのうち、僕はなぜか可笑しくなって、くすくすと笑いが込み上げてきた。

 すると三人のメイド少女も、僕の笑いに誘われたように笑い声を上げた。

「なあ~に、やってんの?」

 怒ったような乱子の声に、僕はドキリとなって身を強張らせた。

 顔を上げると、腕組みをした乱子が、いかにも僕を軽蔑したような表情で僕らを見下ろしていた。

 僕はゆっくりと立ち上がった。

 なぜか今度は何事もなく、立ち上がれた。

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