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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第九章 魔王とこの世界の駒◆
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99ページ

 何事だ、と新王国の軍人たちは自身の目をやられないようにして、目を瞑った。あまりにも眩し過ぎるその光は自分たちに敵対していると見てもいいんだな? 光での目くらましがどうした。何のこれしき、鍛え上げられた自分たちがただの犯罪者たちに負けてたまるものか。


「怯むなっ! 二人を捕えろ!」


 その指示は、二人をどんな形でもいいから捕えろということになる。それはすなわち、四肢を切り落とそうが、致命傷を負わせようが、息さえしていれば構わないのと同等だ。そのことにためらいは一切ない。自分たちに課せられたのは隊長の指示。自分たちはそれに従わなくてはならないのだから。絶対に逃がすものか、と総員で突撃をするのだが――。


 ようやく目が周りに慣れてきた頃になって、一人の軍人が「大変です!」と声を張り上げる。その大変というのは誰が見ても理解できるものだった。そう、フレイヴとアルフレッドはいなくなっていたのだ。光の隙をついて逃げた以外考えられない。


「何っ!?」


 とんだ大失態。またしても一般市民たちは恐怖にさらされることになる! あの男――アルフレッド・バイゾーンが住んでいた町で十三人も殺した殺人鬼なのだから。ある意味でナズーよりも危険である。しかしながら、アルフレッドたちの情報を提供してくれたとある人物からは――。


【聞いたんです、あの犯人たちは忘れられた森に行くって】


 そう言っていた。証拠がないから、疑心的ではあるにしても可能性はあるのだ。忘れられた森は独立の国の国境沿いにある森。そこには大量のナズーが棲みついている、と。


「隊長、いかがなされますか」


 追いかけるか、それとも情報を基に忘れられた森へと向かうか。一緒にいたフレイヴは軍の一部の者はナズーを操っている少年だという噂があるが、にわかに信じがたい。どうするべきか――新王国の軍人たちの隊長は決断した。小さくても長い息をしたからだ。


「放っておこう。あの森に入ったとしても、殺人鬼たちは出られまい。勝手に入って、勝手にナズーにされるだけだ。我々は市民の安全を守るために、ここら一帯の町の警備にあたるぞ」


 隊長は、犯罪者たちがあの森でくたばろうが、構わないという。事実そうなのかもしれない。フレイヴの噂はたかが噂である。その噂を本気で信じるべきではない、と考えたのだ。こちら――新王国軍こそが正義だ。何もかもが正しい。自分たちは間違ったことを一切やっていないのだ。一方で、彼らこそが悪党。世間一般はのうのうと彼らが生きていることを望んじゃいない。故に、軍人たちは追いかけるようなことはしなかったのである。どの道、あの二人は忘れられた森でくたばる運命だとしか考えられなかったのだから。

 走って、走って、走って逃げた先。後ろから軍人たちが追いかけてこないとわかると、フレイヴとアルフレッドの足は止まった。全力疾走で走ったからだろうか。汗だくになりながらも、町はずれの方へとやって来た。そこからしばらく行った先にはあの忘れられた森があるらしい。


 人気がない、ということでカムラは元の人間の少女の姿へと戻った。彼女は走っていないため、当然汗は掻いていない。彼女は心配そうに二人の顔を覗いていた。


「大丈夫?」


「う、うん。なんとか……」


 なんとかはなんとかであっても、フレイヴの息は切れていた。そうであっても、追手に恐怖心があるのだろう。彼は「行きましょう」と息を整えていたアルフレッドに促した。


「また軍の追っ手が来る前に」


「ああ」


 目の前に見える森へと急ぐのだった。

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