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新王国軍人たちはアルフレッドのことを知っていた。そうとなると、彼らは――。
逃げなければならない、という局面ではあるが、逃げるに逃げられない。周りは武装した者たちが自分たちを囲っているからだ。無理に逃げ出そうとしても、ただでは済まされないだろう。フレイヴがカムラを握る力を強めた。一人の軍人がこちらを一瞥してくる。
「バイゾーンと一緒にいるのは……フレイヴ・アイザニラか。その本、見覚えがあるぞ」
もしかして、以前自分を聴取していた関係軍人か。カムラの本を見覚えあるというのは。
「きみは行く先々の町でナズーに襲われていたよなぁ?」
明らかに、軍人たちはフレイヴを疑っているようにも見えた。だが、それは何を? 別に彼自身はナズーを操る力を持っているわけではない。むしろ、ナズーを憎む者として生きているのに。あやしむ軍人の話を聞いて、アルフレッドが起こした事件の担当軍人らしき人物はあごに手を当てて「ほお」と唸った。
「天下の殺人鬼は普通に人を殺すだけでなく、ナズーを手玉に取ってやろうとしていたのですかね?」
「人聞きが悪い」
アルフレッドの言いたげな表情――それは、自分は人を快楽的に殺したわけではない、と口にしたいように見えた。彼の過去を詳しくは知らない。アルフレッドからは人を殺した、という事実しか聞かされていないから。
軍人は「どこが」と鼻で笑う。
「あなたが人を殺したのは事実でしょう? 慣れた手付きで人の首を絞め、息をするように人を滅多刺し。どれもこれも、アルフレッド・バイゾーンがしでかしたこと」
「ちっ――!」
否定をしたいようにも見えていた。だが、違う、という前にアルフレッドは口を閉ざす。否定できない事実がそこにあるらしい。
「散々と他国に逃げたりもして、手を焼いたが……今度は逃げられまい?」
それもその通り。自分たちはここで終わるのだ。それでも、こんなの嫌だ、とフレイヴは思っていた。せっかく、自分たちがナズーの生みの親である魔王を倒さんとするのに。そのことを軍人たちに言っても仕方ないだろう。話を信じないだろう。そうだとしても、わがままぐらいは言わせて欲しい。
――ぼくたちにはやらなければならないことがある。それをあなたたちが知ることはないだろう。でも、ぼくたちの邪魔をするな!
その思いは次第にカムラの本へと伝わったようで、思いが本に積もり積もっていく。彼女はその場で目を開けていられないほどの眩しい光を放つのだった。




