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駅内でアルフレッドがフードを被り出したことに気付いた。本の姿のカムラも気になっているようだが、周りには人がいる。そのため、フレイヴが代表して訊ねるのだった。
「急にどうしたんですか?」
「構内に俺の指名手配書があった。これじゃあ顔を見せられないな」
そうであったとしても、早いところこの敷地内から出たそうにしているようだ。駅の中を巡回している軍人の姿が見えていた。こんな風にこそこそとしている三人の今すぐに行きたい場所は人気のない場所。それでも、ナズーがいなければ、なおもよし。だが、現実はそう甘くない。これから自分たちが向かうのはナズーの楽園のようなものなのだから。
これからの移動手段で公共交通機関は利用できなくなってくるだろう。こればかりは仕方ないで片付けても、本当に仕方がない。自分たちがアルフレッドを仲間として引き入れたのだから。それの代償と考えると――。いいや、元より自分たちは列車に乗るお金すらもほとんど持ち合わせていないのだ。だからこそ、これでいいのだ。
アルフレッドに気を遣うようにして「行きましょうか」と外を指差した。その先をカムラは見ていた。二人にしか聞こえない音量で「ねえ、あれ」と言うのだ。それ以上何も言わなくなったが、何かしら意味があって口を開いたのである。彼らが出口の方に視線を動かすと――。
「……ヤな予感」
ぼそり、とアルフレッドが呟く。それはフレイヴも同感だった。なぜならば、こちらの方に近付こうとする者たちがいたから。その者たちは自分たちにとって好ましい人物たちではないのは理解できている。それでは、彼らは一体? 濃い青色の軍服を着て、武装をした集団。これだけ言えば、新王国民は誰だって答えることはできるはずだ。
「こっちに行くぞ」
こちらへと近付いてくる武装集団を避けるようにして、アルフレッドはフレイヴたちを知っている別の出口の方へと案内しようとするのだが――。
「すみません」
後ろの方にも控えはいたらしい。そう、その人物たちこそ――。
「俺たちに何の用かね、軍人さん」
あくまでも平然とした態度で新王国軍人たちに話しかける。結局はあくまでも、である。内心は恐ろしいと感じているに違いない。
「いえね、最近物騒な世の中ですから」
「ああ、ナズーが大量に現れている世の中だもんな。用件はそれだけかい? 悪いが、俺たちは先を急いでいるもんでね」
行くぞ、というその声音はどちらかと言うならば「逃げるぞ」と言っているように聞こえた。それは何もフレイヴとカムラだけではなかった。自分たちを呼び止めた軍人たちは、自分たちが逃げられないようにして囲み出した。周りを行き交う一般人は何事なのか、と怪訝そうに見つめながら通り過ぎていく。
「我々の用件はそれではありませんよ。ねえ、アルフレッド・バイゾーンさん」
とある町で殺人の容疑をかけられていること、忘れたわけじゃありませんよね。




