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あの野郎、とカムラは本の姿になって文字を起こしていた。その文章を見たフレイヴとアルフレッドは苦笑するしかない。彼らは列車の中にいた。もちろん、一人分の席代を浮かすために彼女は本の姿になっていたのである。
「次は忘れられた森か。二人は知らないだろ?」
そう言うアルフレッドは何かを知っている様子。いや、オルチェとの会話で場所を知っていた。そこへ訪れたことがあるのだろうか。
「そうですね。一応、独立の国に行くときは主道を使いましたし。舗装されていない場所なんて、ナズーが出てくるって言うようなものでもありますし」
「もっともだな。俺はそこを通って入国したけど」
やはりか。軍に追われていたときに逃げ込むようにして入って、独立の国へと入国した、と。逃亡者ならば、打ってつけの逃げ道だろう。その代わり、多くのナズーとの鬼ごっこをしなくてはならなかったらしいが。
「というか、あそこは気味の悪い森だ。ナズーが大量にいるからっていう理由かもしれんが、森自体が不気味さを漂わせている」
そこへ行かなくてはならないのか、と思うだけでも鬱になってくるらしい。そんなアルフレッドにフレイヴは「すみません」と少しだけ申し訳なさそうだ。
「本当はそこへ近付かない方がいいかもしれませんけど……」
「いいさ。二人の目的のお手伝いさんだもんな」
どこか皮肉ったようにそう言うと、カムラが『お手伝いさんよりも』と割って入ってくる。
『おっさんって、道化師みたいだよね。』
「それって、俺をばかにしているんだろうか」
『ばかにはしていないよ。からかっているだけ。』
「どちらにしても、すげぇ腹立つよな。お嬢って」
珍しくこめかみに青筋を立てて、こちらを見るアルフレッドは本に表記された言葉にむかついているようだ。味方に対しても毒舌なのは当然であると思っているのだろうか。フレイヴは一応「カムラ」と小さな声で呼びかけると、彼女に文字を起こした。
『アルフレッドさんはぼくたちがするべきことを手伝ってくれているんだろ? そういう風に言わないの。』
フレイヴに叱責されたのが堪えたのだろう。どこか弱々しい字体で『ごめんなさい』と謝罪文章を浮かび上がらせてきた。それを見せると、アルフレッドは「別にいいけどな」と許してくれたようである。彼もいい年をした大人だ。周りに迷惑をかけるような大声を出したりは――いや、できない。自分はお尋ね者でもあるのだから。金なし犯罪者が、こうして列車に乗っていること自体がありえないから。それはフレイヴたちにも言える。軍の聴取から逃げ出してきて、半信半疑の状態で捜索されているようなものだ。こうして列車の旅ができているのは、とても運がいいことなのだろう。
そうこう考えている内に、三人を乗せた列車は忘れられた森で一番近い町の駅へと着くのだった。




