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<ご注意ください>
最近、墓を荒らす不審者が出没しています。その不審者は手持ちの得物で遺体を傷付けているそうです。この不届き者を許しがたいと思われている方々も多いかと思われますが、以下のことを守って過ごしてください。
・夜道を独りで出歩かない。
・犯人を独りで捕まえようとしない。
・面白半分に、夜に墓場へと行かないこと。
これらのことを守って、よりよい町にしていきましょう。
※腕っぷしに自信のある方へ。
町の安全を考えて、夜の見回りをみなさんでしていただきたいと思っています。是非、我こそはと思っている人は見回り表を作りますので、町長のもとまでご連絡ください。
(「N4.温暖の月 第6週:0047号/保安の町:町内会のお知らせ」より一部抜粋)
天使物語。それはプトレア教唯一神であるジンガシャマロのお告げにより、自称天使を名乗った男が夜な夜な墓堀をしていた話だ。その男が、神話の一説に出てくる人物が魔王であるとオルチェは言う。この事実に三人は顔を見合わせつつ、怪訝そうな顔を見せた。
「魔王が天使だと自称していたわけじゃないが、大昔にちょっとした事件があってな。それが、古い墓を掘り起こそうとしていたやつがいたんだと」
オルチェの言い分だと魔王は人の墓を掘り起こしていた、ということになる。何のために? それこそ、プトレア教の神様であるジンガシャマロに天命を授かったのだろうか。人の魂を浄化しろと? しかし、待って欲しい。魔王はナズーを生み出した。人の魂を浄化するどころか、人ではない何かにしているようなものだ。
「おかしくないですか? 人の魂を浄化するのに、ナズーを生み出すなんて」
魂を浄化するというのは、人がナズーになるという意味合いではないはずだ。確か、プトレア教の教えによると、人の魂は死後に汚れているからジンガシャマロが浄化することになっているのに。不思議に思うフレイヴにオルチェは「別におかしな話ではない」と平然としていた。
「本当に神様は人間の味方なのか。それを考えると、おかしい話は当然の話になってくるよな? ありえなくもない、ってな」
なんて笑いながら小袋をアルフレッドに投げ渡してきた。それを受け取った彼は中身を確認すると、そこに入っていたお金に目を丸くする。なぜにお金を渡してきた? 不思議に思っていると、オルチェは「次だ」とあごで明後日の方を差し出した。
「次は『忘れられた森』に行ってこいよ」
「忘れられた森、ですか?」
「そこって、両国の国境にある森だよな?」
「ああ。そこで真実を聞くといい」
真実と聞いてカムラは反応する。それと同時に、以前言っていた両国の狭間には魔王がいる、という話も思い出す。
「だったら、あんたが教えればいいのに」
その文句をオルチェは「敵だからな」と流した。
「敵だから、教えない。そして、敵のお仲間たちにもな」
それだけ言うと、町の方へと行ってしまった。またしても知りたいことを教えてくれないオルチェにカムラは「なんだよ」と口を尖らせる。
「あの野郎は」
この場にいても仕方がないと思ったのか、カムラはフレイヴとアルフレッドに「行くよ」と促すのだった。そんな彼女たちの半歩後ろを歩くアルフレッドはオルチェが向かう先を横目に思う。
――なんか、あいつって……この二人に指示を出しているようだな。
魔王に関する周りのことをである。それはすなわち、オルチェは二人に魔王のことを知れ、とでも言っているようなものであるということだった。




