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「なんであんたがここにっ!」
カムラはオルチェの姿に目くじらを立てていた。まさか、助けてもらうなんて思ってもいなかったから。自分の『敵』であるから。それだからこそ、助けてもらったという意識は一切ない。むしろ、それが罠だと思っているようで――。
「何が狙いだっ。あたしを助けたふりして殺そうって算段か?」
「別にそうじゃねぇよ」
疑り深いのか、カムラは「絶対嘘だ」と自信ありげに断言した。
「じゃなきゃ、助ける気なんてないだろ。あたしが『敵』なら!」
そう起き上がると、オルチェを睨みつけた。これにフレイヴとアルフレッドは止めようとする。カムラが何をしでかすかわからないから。
ここで喧騒は止めてくれよ、とフレイヴは目で訴える。このようなところで言い合って留まっているならば、またナズーが現れるだろう。それも、逃げられないような数が迫ってくるかもしれない。それだからこそ、対立を避けるために「落ち着いて」と言うのだ。
「確かに、ここでオルチェさんがいるのは変な話かもしれないけど、ぼくたちは現に助かっただろ?」
「本当に? こいつ、本当はあたしらのあとを着けていたんじゃないの? ストーカーばりに」
「地味に心にくるような冗談は止めろ」
どうやら、オルチェはこの発言に少しだけ傷付いているらしい。
「つーか、お前らを助けてやったのに」
「はあ? どの口が言ってんの? ねえ、嘘ついて、あたしらを騙して楽しい?」
「お前、とことん口が悪いな」
鼻白むオルチェに二人は同情するしかなかった。そうして、どうにかカムラを宥めさせ、落ち着きを取り戻したところで彼はアルフレッドの方を見た。
「で、このおじさんはこの二人にこき使われているのか」
「あんただって口が悪いじゃん!」
「お返しだ、ばーか」
くだらない言い争い。もう過ぎ去ったことをぶり返してくるとは。フレイヴはカムラがオルチェに突っかからないように抑える。一方でアルフレッドもいつ論争の導線に火がつかないかひやひやしつつも「そういうわけじゃないんだがな」と一応否定する。
「確かに、二人には頼まれたがな。でも、最終的な判断をしたのは俺だ」
「それでもよくこの二人……特にこの女と一緒にいようと思ったよな」
「なんだとっ、酒ッカスが」
「黙れ、女男」
「そっちが。囮役め」
「止めなよ、もう」
これはオルチェが一言多いせいだからだろうか。話がなかなか進まない。フレイヴは島自治区であったことを報告したいのに。
それから、フレイヴがオルチェに報告できたのは、ナズーから助けてもらって一時間が経った頃だった。




