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沈黙の空気、疲れてくる足――それでも、三人は終始無言状態で目の前に存在していた山を乗り越えた。近くに見える町を横目にカムラは羨ましそうに見つめる。彼女が思っていることはフレイヴもアルフレッドも同様であった。
「ああ、お金があったらな」
我慢ができないらしい。二人が黙っておいたことすらも平然と言ってのけるのだから。結構前から。どうせ町には泊まれまい、とわかりきったことではあるが――カムラはアルフレッドの方を見て似非敬礼をする。
「隊長、本日の夕食はいかが致しましょうかっ!」
「そこら辺に生っている果物や雑草でも食べてろ」
「隊長、それならば、食べるときにあたって、高級レストランなどで出るような食材をイメージしてもよろしいでしょうか!」
「いや、そこは勝手にしてくれ」
余程、町で温かい物を食べたい気持ちで飢えているのだろう。だが、それは誰もが思っている気持ちだ。フレイヴだって、湯気が立ち込める食べ物をここしばらくは見ていない。彼が食べられると知っている野生の果樹の実を一つだけもぎ取った。その横から「酒も飲みたいな」とアルフレッドの呟きが聞こえてくる。
「何をするにしても、金が要るよな。それでも、こうして自生している木の実とかがあるだけでもマシと言えるか」
「どうにかしてお金を稼ぐ方法を見つけた方がいいですよね。でも、ぼくらは一ヵ所には留まれそうにないし」
そう、フレイヴたちは一つの町に長時間いることができない。一つはアルフレッドが軍から指名手配を受けているということ。他にもカムラがナズーを引き寄せていることもある。その偶然の厄介な件が交差して生まれた彼らの考えは、町に近付かないことだった。ただし、英傑の町と言ったところでは例外と言えよう。
平たく言えば、三人は原則的に町へと入ることができないのだ。だからこそ、こうして寂しいような、つらいような道を辿らなければならない。それでも、妥協はしなければならない。逆に考えるのだ。こういう生活を強いることによって、ナズーの親玉である魔王が倒せて世界に平和が訪れるのだと。そう考えないと、気が狂いそうなのである。
「だったら、ちょっとした甘味とか食べたいよな」
アルフレッドのその言葉にフレイヴは「そうですね」と答えたときだった。あれ、カムラはどこで食料調達をしているのだろうか、と後ろを振り返ると――。
「なっ……!」
「ナズーだ!」
言おうとしていたことを、アルフレッドに言われてしまった。続けて、自分たちの死角で食料調達をしていたらしい。カムラでさえも「うわっ」と少し青ざめているよう。
しかしながら、現れたナズーは一体。大きさも通常の物。これならば、自分たちが対峙したとしても問題はあるまい。
「カムラ!」
「うん!」
フレイヴとカムラが戦おうと身構えるのだが――。
「逃げるぞ!」
命優先という考えがあるアルフレッドに手を引かれて逃げることに。それもそうだ、島自治区にいたときは丸腰だったのだから。なんとか二人は説得しようと試みるのだが――アルフレッドは逃げるということしか頭に入っていなかった。ああ、この忌まわしきバケモノを倒したいのに!




