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何が起こったのかなんて、フレイヴはしばらく理解できなかった。気がついたら、夜の村の中に放り出されていたのだから。ここではとんでもないことが起こっていたのだから。目の前の光景を見て段々と理解していく。真っ赤に燃え盛る村の家々。阿鼻叫喚とする村の中。その怒号と悲鳴の渦中にはどんな人よりも大きな姿をした何かがいた。それが何であるかを知っている。誰もが知る何か、『あれ』――あれこそ、この世界の人々を恐怖に陥れるバケモノ、ナズーである。それは理性失くして、すべてを破壊する存在。誰にも止められない破壊神とも言うべきか。
「た、助けなきゃ!」
ようやくするべきだと思うことを口に出して、行動を起こそうとするのだが、そんな自分の眼前には「ほれ、見たことか!」と炎の光に照らされて形相の睨みを利かせている村長がいた。
「類は友を呼ぶとよく言ったものよ。まさにその通りだったな。人ならざる者は同等の者を呼び寄せる」
人ならざる者とはカムラのことか。それと同時に自分の家の方から大きな音がした。そこからは後ずさりする彼女と家から出てきた二体のナズー。カムラはどうすることもできない様子で眉をしかめていた。これには言いたい放題だ、と言わんばかりに「どうだ、バケモノ」と歪み笑いを見せる。罵詈雑言をぶつける。
「お前の正体はバケモノ! 事実、お前がこの村に来た日の夜にナズーはやって来た! 村人やフレイヴの両親はナズーにされたのだ!」
そう喜々とする村長の姿にも変化が訪れた。徐々に彼の体を乗っ取ろうとする黒いもや。それでも、そのようなことなんてお構いなしのようである。高らかに笑う。なんとも醜いぐしゃぐしゃの表情か。完全に黒いもやが村長を取り囲んだ途端――。
「危ないっ!」
いち早く危険を察知したカムラがフレイヴの服の襟を引っ張った。自分がいた場所には穴が空く。そうしたのは紛れもない、村長だったナズーである。我が目を疑った。次々にただの人間がバケモノへと変わっていくのだから。信じたくなかった。家から出てきたバケモノを見て、両親だと信じたくないから。何も見たくない、何も考えたくない。何がいけなかったのかと思うと――わからない。すべてを見なかったことにしたいと思えた。そうだ、これは夢。決して現実ではない非日常的な存在。そう思いたいのだ。だが、所詮は夢物語。事実を受け入れるしかないのか?
こんな最悪な運命を書き変えたい!
そんな願いにフレイヴの右手の平は血が出るほど握りしめられていたのだが、人の思いは、強ければ強いほど運命すらも変えられることを存じているだろうか。
「え?」
右手に違和感。何だろうかとそちらを見れば、そこには変わった形をした剣が握られていたのである。近くにいたはずのカムラはいなかった。これは一体何?