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「お願い。手伝って……」
フレイヴにとっても初めて見たかもしれないカムラの泣きそうな顔。目には少しばかりの涙を溜めて、声を震わせていた。アルフレッドは騙されないぞ、と顔を背けた。だが、彼女はこちらの反応を待っているだけでじっと見つめてくるばかり。眉をハの字にして、じっと見るだけ。その視線が痛い。
「あのなぁ……」
反応に困ったようにして、後ろ頭を掻いた。さて、どうしたものか、と口を開こうとしたときだ。フレイヴの方からも「ぼくも」と頭を下げてきた。
「ぼくとカムラは利害一致して一緒にいます。だから、ぼくからもお願いを言ってもいいですか?」
「…………」
「ぼくたちはこの世界にはびこるナズーの生みの親である魔王を倒さなくてはいけません。それでも、自分たちだけの力じゃどうしようもない。それだから、アルフレッドさんの力も貸してください」
フレイヴの懇願に、アルフレッドはまだ渋っていた。なぜに自分でなくてはいけないのか。その納得ができていなかったのだ。ただ、偶然に定期船の中で出会っただけの不法侵入者同士。島へと無事逃げられて、やることは特になかったから手伝っただけの神話物語について。彼が「うーん」と唸っていると、「それに」まだ話を続けるようだった。
「ぼくたち、大人の率直な意見が欲しいんです。ぼくもカムラも、自制が利かずに特攻してしまうことがあるから」
アルフレッドという人物は常に現実を見据えている。ナズーと遭遇したときでも、次にどのような行動をとるべきか考えるときだって。二人は自分たちとは正反対の考えを持つ者の意見が欲しかったのである。それは魔王を倒す度にとって、もっとも重要参考人になるはず。きっと、自分たちだけが突撃したとしても、返り討ちに遭う可能性だって出てくる。そのストッパー役である常識人が必要不可欠なのだ。
二人のどうしてもという懇願に加え、元より帰る場所がないからアルフレッドは――。
「わかったよ」
盛大なため息をつくと――「手伝ってやるよ」と言ってくれた。
「だがな、特にお嬢。俺の意見もちったあ、聞けよ」
「わかってる」
本当にわかっているのか、と甚だあやしかったが、アルフレッドはフレイヴの方を見る。彼は手伝ってくれるという言葉に感激していた。
「ありがとうございます!」
「いいってことよ。どうせ、行く宛はないようなもんだし」
よろしくな、と二人は力強い握手を交わす。この大きな手――フレイヴは父親に似ていると思っていたが、それを口にすることはなかった。頼もしい仲間ができた。その嬉しさが強かったからかもしれない。
こうして、アルフレッドを加えて三人は英傑の町にいるであろうオルチェのもとへと向かうのだった。




