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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第八章 懇願と指示◆
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88ページ

 終始無言。フレイヴは本当に一言も発さないまま、新王国の領土に足を踏み入れた。船内では色々と事情聴取をされたが、カムラやアルフレッドが主に応答していた。アルフレッドはどうも彼女の話に合わせていたらしい。あのときの注意をきちんと聞いていたようだ。


「嘘をついたのか」


 ようやく軍から解放された三人。軍人たちに聞こえないような場所まで来て、アルフレッドは大きなため息を漏らす。これにカムラは「うん」と至極当然のようにして答えた。


「二人がバックヴォーンに連れ去られた、みたいなことを言ったら動いてくれた」


「だとしても、俺は指名手配犯だぞ。フレイヴの父親として誤魔化したが……お前さん、あまり嬉しい話じゃないだろ」


 フレイヴに話を振る。その問いかけに何も言えられない。どう答えたらいいのか、わからなかったから。その代わりにカムラが口を開いた。


「あたしは全部嘘をついていない。ただ単に話を大きくしただけ。そりゃ、フレイヴとおっさんは親子じゃないけど」


 カムラの場合は強いて言うならば、の話である。確かにフレイヴはケレントのもとへと向かい、島自治区への生き方を教えてもらった。だが、アルフレッドは別だ。自分の意思で向かおうとしていた。それでも、話の捉えようによっては『二人はケレントに島の方に連れていかれた』と解釈もできる。かなりの強引さはあるが。


「それに、嘘をつかなかったら……大陸に戻れたと思う?」


 カムラにそう言われると、何も言えなくなる二人。しかし、アルフレッドは「冗談じゃない」としかめっ面を見せていた。


「それだったら、フレイヴだけ助けりゃよかったじゃねぇのか? 何も俺までも大陸に戻さなくても」


 何のために島自治区へと渡航したのか、わからなくなってくるではないか。確かに、二人の天使物語に関することで手伝いをしたが、大陸に戻るとは言っていないのだ。静かに余生をあの島で過ごそうと思っていたのに。ありがた迷惑である。いい顔をしないアルフレッドにカムラは「別にいいじゃん」と言い出す。


「大体、おっさんも連れ戻したのも、どうでもいいとか思っていなかったんだし」


 なんて唇を尖らせていた。言い合いをする二人であったが、カムラにとってアルフレッドという存在はどうでもいいというものではなかったようだ。これにフレイヴは少しだけ心が温かくなったような気がする。


「それに……あたしたちはおっさんの過去なんて気にしないもん。それでも、あたしたちのやろうとしていることを手伝って欲しいの」


「…………」


「一応、話したとは思うけれども、世界を変えてしまったやつを倒すのにはあたしだけではどうしようもない。今は、クラッシャーはいなくなって、新たに魔王なんて呼ばれているヤバいやつがいるけれども」


 カムラは独りの力では敵わないと思っているらしい。だから、フレイヴに懇願した。以前の戦いでも同様に誰かに頼っていた。世界を救うのは独りでは何もできない、と彼女は知っている。それだから――。


「厚かましいかもしれない。なんで、あたしみたいなやつの手助けをしなくちゃいけないのかわからないと思うかもしれない。それでも、お願い。手伝って……」


 少しばかり声を震わせるカムラはアルフレッドに顔を向ける。今にも泣きそうな少女の表情。初めて見るもの寂しそうな顔。これには動揺するしかなかった。迷いが生じる。手伝うか、手伝わないか。自身の右手を抑えつけるようにして、悩ましい顔を見せるのだった。

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