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予想外だった。なぜに新王国の軍人たちが島自治区へと来ているのだろうか。我が目を疑う。これは幻か。目を擦って、改めて確認をしてみるも――やはり見慣れた軍服を着た彼らだ。見間違えることもない、濃い青色の武装集団。どうして?
「フレイヴ、もう大丈夫だからね。さあ、舟に乗って」
「えっ、あ? え?」
「近くに父親らしき人物がいないようです」
「周辺を探せ。もしかしたら、ナズーに襲われているかもしれん」
なんなのだ? 訳がわからない。理解しがたい状況がここにある。そう軍人たちの会話を聞いている間、フレイヴは為されるがまま小舟に乗せられた。これはどういう状況? 上手く把握ができない。なぜに自分たちは保護される形で? それよりも、彼らはなんと言った? 父親? 自分に父親はいない。父親はこの目で見た。カムラと出会った夜にナズーへとなってしまったのだから。
父親、というのはもしかしてアルフレッドのことだろうか。ここでカムラの発言を思い出す。彼女は何か考えがあって、意識を本体へと戻した。そこから、ケレントや独立の国の軍警備隊を頼った――というわけではなさそうだ。
【あたしに話を合わせてね】
フレイヴを乗せた小舟は本船へと戻っていく。その船から覗かせている一人の少女はこちらに向かって、手を振っていた。すべてを理解すると、自分たちを助けに来たという新王国の軍人たちに罪悪感が頭を過る。つまり、カムラは嘘をついて軍を動かしたのである。どのような方法で嘘をついたのだろうか。
ここは島自治区。新王国の領土ではなく、独立の国の領土だ。おまけに、この島の立ち入りは厳しく取りしまっている。ただでさえ、自国の人間ですらも渡航は困難。新王国民であるならば、なおさらだ。そんな事情を押し退けてまでこうして来られるなんて。ある意味でカムラはすごいとは思う。口が達者だとは思う。頼りになる、と誇らしくも思う。そうだとしても、気分は最悪。フレイヴは嘘が嫌いなのだから。嘘をつくことは好きではない。事実を話さない、というのはまだ好ましい。だが、彼女の考えは明らかに気持ちがよいものではなかった。反論はしたい。そうであっても、何も言えなかった。アルフレッドが父親ではない、という事実ですらも口にできなかった。
新王国の軍人たちに保護されて、一時間ほどでアルフレッドは島から連れてこられた。そのときの彼の表情や気持ちはフレイヴと同様であるようだった。




