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しばらくの時間をくれ、とカムラが言って四日目が訪れた。海の向こう側から覗かせてくる朝日が眩しいとフレイヴは思う。ケレントと話して問題ないのだろうか。その心配が積もりに積もりいく。
「ほれ」
ぼんやりと日の光を眺めていると、果物を手にしたアルフレッドがそれを渡してくる。果物は少しばかり温かい。体温で温まったのだろう。フレイヴは朝日を見つめながら齧りつく。
「お嬢は上手くいっているのかね?」
もう四日目だぞ。そう苦笑を浮かべるアルフレッドも腰掛けて、果物を齧った。独り言のように聞こえて、こちらに質問しているようにも見えるようだった。だから、フレイヴは「わかりません」と答えるのだった。
「カムラは上手くやるって言っていたけど、一筋縄ではいかないと思いますよ」
「だろうな。どのようにして、この警備が厳しい島へ来るかが問題だ」
口が悪いと評されるカムラであっても、毒舌を利用して島自治区へ正々堂々とやって来るのは不可能だろう。いや、口が悪いだろうが、何だろうが関係ない。この島を領土としている独立の国は新王国の人間を踏み入れたくないだろうから。内心、無理だろうなという思いが強いアルフレッドが最後の一口を食べ終えたときだった。地平線に見える何かのシルエット。朝日の逆光でよく見えないが――。
「アルフレッドさん、あれ……」
フレイヴにも見えているらしい。海の上で浮かぶ物で考えられるのは船しか思いつかないだろう。あの船は定期的に島自治区と大陸を結ぶ船だろうか。そして何より、二人には引っかかりがあった。それは船の進行方向である。こちらの方に近付いてきているように見えていた。確か、定期船はまだ北側を通るはず。それなのにである。
可能性として考えられることは二つある。一つは奇跡的な話ではあるが、カムラがケレントなどにでも話をつけて、船を出してもらったか。もう一つは、二人は島自治区へと渡航をする際、船内で幾人かの軍警備員に見つかっていること。それはすなわち、不法侵入した外国人を捕えるための部隊がやって来たかのどちらかである。
「お前さん、どうする?」
「どうって……」
できることならば、前者の方がいい。後者なんてとんでもない。ここで捕まって、一生牢獄にいるなんて嫌だった。そうならないためにも、島の中へと逃げるのが得策だろう。だが、それでもカムラを信じたかった。それだからこそ、フレイヴは――。
「カムラを信じます」
こちらへとやって来る船を歓迎する、と言うのだった。




