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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第七章 天使物語と謎◆
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82ページ

 かつて、この地には天より使命を授かったという者がいた。その者はある日突然、「あなたにはするべきことがある」とお告げを受けたという。初めは単なる空耳ばかりだと思い込んでいたそうだ。彼はプトレア教の信者ではなかったそうだ。どうやら、大陸よりやって来た外国人だった。だが、長きに亘って、そのお告げが聞こえ続けていると、自分こそ選ばれし者ではないだろうかと思うようになってきたという。


 しかしながら、天命を授かったとしても、彼が聞いたのは「あなたにはするべきことがある」の一言のみである。それが何を差すのか、思い当たったのは周りが信仰していたプトレア教の唯一神ジンガシャマロである。彼はジンガシャマロが自身に天命を授けたのだと信じて疑わなかった。自分がするべきこと。実際に考えてみれば、思いつきそうにない。いくら考えに考えても、するべきことがあると言われても、何も思いつかなかった。そこで、彼は教典に載っているジンガシャマロがやりたかったことを行動に起こすことに決めた。プトレア教ジンガシャマロは死者の魂を浄化する力とその役目を担っているのだ。彼の解釈はそれだ、と自己判断で決定した。


 その自己判断は人を殺すことだった。いや、厳密に言えば、死んだ者をもう一度殺すということである。死の直後の魂は不浄、と教典には解かれている。それを基にして、墓に埋まっていた死体を掘り起こして、浄化するために体を傷付けていたという。最初は、彼も人らしく不安があっただろう。それだからこそ、闇夜に紛れてやっていたはずだ。ずっと、ずっと。


 あるとき、彼がいつものように、死者の魂を浄化していると、墓場の見回り番に見つかってしまった。彼を見つけたその者は真っ黒な姿をした彼をこう呼んだ。「悪魔だ」と。


 彼はすぐさま捕らえられた。大人しくなることはなかった。暴れたのだ。私はジンガシャマロ様より天命を授けられた天使だ、と叫びながら。それでも、他の者たちにとって彼が天使には見えなかっただろう。頭が狂ってしまったものか、あるいは本当に悪魔が彼を唆したのか。


 プトレア教にとっての悪魔とは大陸に住まう負の感情のみを持つ者たちのことを差す。彼らはそれを人々に自身が持つ負の感情をぶつけて精神を不安定とさせる力があったという。彼は最終的に「悪魔に乗っ取られた者」と見なされ、生かすこともなく、殺されるしかなかったという。


   ※プトレア教:外伝物語:「天使物語」

 ようやく、天使物語について見つけたかと思えば――。フレイヴはこの話の内容がどのようにして魔王に関連があるのかわからなかった。こじつけをするとするならば、ナズーにされた男の話、強く言うならば――魔王に唆された男の物語だろう。そうと捉えるならば、もっと詳しく調べる必要があった。それだけ情報が少ない状態なのだから。


――だったら、あの人が詳しいかも?


 考えるのはもう一度、調査員がいた遺跡へと戻ることだった。元来た道をまた二日続けて戻ることになるのだが、二人は賛同してくれるだろうか。早速そのことを訊いてみると――。


「ヤだ」


 ですよね。

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