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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第一章 本と目覚め◆
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8ページ

「『クラッシャー』を倒す?」


 それは誰のことだろうか、とフレイヴは思った。ここにきてカムラが自分の目的を語り出したのである。これまでの話を合わせるならば――彼女はクラッシャーと呼ぶ世界の歴史を書き変えてしまった者を倒す使命があるらしい。その世界改変者とやらは黒の王国の軍長という立派な役職に就任しており、カムラ自身はクーデターを企てていた反乱軍の一員だったそうだ。あるとき、そのクラッシャーを倒せるチャンスが巡ってきたのだが、あっけなく返り討ちにあってしまったという。そして、目を覚ましたときにいたのが、あの小さな小屋だった、と。


「友達がいたんだ。その黒の王国の政権を変えようとして。あたしのやるべきことを手伝ってくれて」


「でも、黒の王国がこの世界の過去にも存在しないなら……」


「それでも、あたしはここにいる」


 それはすなわち、この世界にもクラッシャーが存在するという。だとするならば、待って欲しい。フレイヴにとっての最大の疑問。カムラはその黒の王国の軍長に返り討ちにあったのではないのか。殺されたのではないのか。死んだのではないのか。このことについて、訊ねてみると彼女は非常識的なことを平然と口にした。


「俺、あたしはクラッシャーを倒すまでは何度だってよみがえるんだ」


 そうでなければ、このようなことを口に出さない、と空笑いをした。それもそうだろう。もはや、そうとしか考えられないのかもしれない。言うことをすべて信じるならば、であるが。だが、どうして過去に黒の王国がない世界にカムラはいるのか。彼女はこれからどのようにしてクラッシャーとやらを見つけるつもりなのか。


「カムラ、これからどうするつもりなの?」


 違う世界であるならば、カムラの友達は存在しないだろう。それがたとえ、過去であろうが、未来であろうが。彼女が殺された直後の時代であるならば、世界のどこかにいる可能性は高い。だが、この世界の過去も現在にも『黒の王国』とやらは存在しない。そのため、その友人はこの世界にいるという期待はしない方がいいだろう。もっとも、そのクラッシャーとやらがどこにいるのか見当つかないのも事実なのではあるのだが。


 これからのことを訊かれたカムラは目をぐるりと回すと、小さく息を吐いた。


「どうするって言ったってな。地道に世界中を回って倒すしかないよ。これは世界中を敵に回したとしてもやり遂げなければならないことだし」


 それを聞いて、フレイヴはカムラの手伝いをしてあげたいと思った。だが、そう考えたとしても、自分は手伝えるだけの力があるのだろうか。足手まといになるだけだろうか。なんて思ってしまうと、開こうとしていた口を閉じることぐらいしかできそうにない。発言事実は取り消せない。それこそ、彼女が言っている世界を書き変えるぐらいの力がなければどうしようもないだろう。


 結局、フレイヴが何も言い出せないまま「俺、寝るわ」とカムラは大きく欠伸をすると、本の姿になってしまった。


「あんまり俺のこと、あぁ、違う。あたしのことを気にするなよ、ないでよ。これはあたしの問題であって、フレイヴには全く関係のない話だからさ」


 そう言われてしまうと、心の奥が痛かった。それに気の利いた言葉すらも出てこなくて、寝るしかなかった。これから起こることを予測できずして。

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