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<N338.冷涼の月 第2週目と4日>
私は島の人たちに迫害を受けて、どうにか逃げてきた。
もう、ここで過ごすしかない。どこかの町や村で厄介になるわけにもいかなかった。
なぜならば、どこもかしこも外国人狩りがあっているからである。
この島へと渡航してきた外国人がナズーを連れてきた。そう誰かが吹聴しているらしい。
とても悔しいし、悲しい。
<N338.冷涼の月 第3週目と2日>
ここで暮らしていると、同じくして外国人狩りから逃げ伸びてきた女性がやって来た。
私たちは下手に動くこともできないし、大陸へと逃げる術もないのだ。
だが、誰かがいるというだけでも、この絶望的状況の中で唯一の安らぎと言っても過言ではなかった。
<N338.冷涼の月 第9週目と6日>
日を重ねていく毎に、私は彼女を愛しく思うようになっていた。
もちろん、彼女だって私を慕ってくれている。そう、私たちは惹かれ合ったのだ。
だからこそ、生きるのがつらいと思っていたことが、楽しいと思えるようになった。
<N339.温暖の月 第11週目と2日>
幸せというのは長くは続かないらしい。彼女は突然苦しみ出したのだ。
医者がいなければ、薬もないようなこの場所で私はどうしていいかわからなかった。
そのため、とても嫌な予感しかしない。
<N339.温暖の月 第12週目と5日>
最悪なことが起きた。私が愛し愛されていた彼女はナズーになってしまったからだ。
私はこの目で目撃した。人はナズーに襲われて、ナズーになるというのは関係ないらしい。
だが、そのようなことはどうだっていい。
なぜならば、私は愛していた女性を失ったのだから。
調査員の言葉の案内通りに、三人は遺跡の外へと出た。外観を見てみると、低い建物のように見えているが――彼の話曰く、地下に作られた建築物であるとか。内部が水浸しなのは大昔、長期に亘る雨と地下水の影響でそうなってしまったらしい。
「あの人って、すごいなぁ」
フレイヴは外の空気を体内へと取り込みながら、調査員を尊敬する。だが、そんな彼をよそに他の二人はそう思わないようだ。一人は疑心を、もう一人は無関心である。それだからこそ、一人は疑問を口に出そうとするのだが――「そうだね」と軽くカムラが流す。その話は終わり、さっさと目的の場所へ行こうではないか、と言いたげ。これにフレイヴは少しだけ残念そうに「うん」と頷く。もうちょっと、調査員の人のことについて話したいのに。それはアルフレッドも同様である。彼女は気にならないのだろうか、と。
「確か、南東だったよね。それじゃあ、ナズーに見つからないように行こう」
「そうだね、ぼくたちは戦う術なんてないようなものだし」
「というよりも、また出会ったら、俺は逃げきれる自信があまりないぞ」
「じゃあ、諦めたら?」
「それは死ねってか?」
些細なことで喧騒が起きそうだった。いや、起きかけようとしている。それをフレイヴは呆れた表情で「止めなよ」と止めに入る。
「ここでけんかして、本当にナズーに追い回されたらどうするんだよ。二人とも、けんかをしながら逃げられないでしょ?」
「それは当たり前じゃん」
「お嬢って、本当に口が悪いな」
これでも多少は傷付いているんだぞ、とアルフレッドは唇を尖らせるのだった。彼の言うことにフレイヴは否定をしない。だって、カムラって本当に口が悪いんだもん。そして、できることならば、二人が言い合いをしない状態で島の中の散策をしたいものだ、と願うばかりであった。




