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誰もいないと思っていた遺跡の中。まさかここで人に会えるとは思わなかった。そんな喜びを隠せないフレイヴとカムラはその男へと声をかけるのだった。そんな彼らの数歩後ろではアルフレッドが怪訝そうにしている。
「あの……」
フレイヴがおずおずと声をかけると、男はこちらの方を振り返ってくれた。二人の顔を見て、目を大きく見開く。驚きを隠せない様子である。
「あなたたちは……」
「お久しぶりです」
そう、この遺跡のような広間にいた男性とは、以前に知り合った国の調査員だったのだ。まさか、このような場所で会うとは思ってもいなかったらしい。彼もどこか嬉しそうに「お久しぶりですね」と頬を緩めていた。
「私たちって何かしらの縁でもあるんで……あれ? あなた、体が透けて見えるようですが?」
調査員はカムラの姿を見て、戸惑っていた。それもそのはず、今の彼女は実体を持たないのだから。意識だけをフレイヴたちのところへ飛ばしているだけに過ぎない。だが、自分たちの状況を説明する気がないのか、カムラは「気のせい」で片付けた。そして、その雑過ぎる回答に納得してしまうのは調査員である。
「そうなんですね。まあ、私も年だから、よく見えないのでしょう」
それとこれは関係ない気がする、と蚊帳の外にいるアルフレッドは苦笑を浮かべていた。
まさかの再会に二人は少しだけ世間話をすると、調査員がタイミングを見計らったようにして「どうしてここにいるんですか」と設問を投げかけてきた。彼に嘘をつく気はなかったのだろう。フレイヴは本当のことを話してしまった。ナズーに詳しい戦友軍から天使物語について調べてこいと言われたこと、道中で頼りになるアルフレッドと共に調査することになったということ。それでも、すべて話してはいない。クラッシャーに関すること、自分たちに置かれた状況だけは黙っておいた。少しばかり心が痛かったが。
「そうですか、そうだったんですね。それはさぞかし大変だったことでしょう」
それならば、と調査員は「あの」と一つの情報をフレイヴに与える。
「ここは天使物語に関する遺跡ではありませんが、この遺跡から南東へ向かった先にならありますよ」
「えっ、ほ、本当ですか!?」
思わぬ情報にフレイヴの表情は緩んだ。あまりの嬉しさにカムラとアルフレッドの方を見る。
「ええ、本当ですとも」
「いつもぼくたちに情報をありがとうございます」
感謝の言葉に調査員は「そんな」と気恥ずかしそうにする。
「そこまで思っていただけるのは嬉しい限りですよ」
「いえいえ、そんな」
と、ここでアルフレッドが「あのよ」と割って入ってくる。
「積もりに積もった話をするのは構わないけど……お前さん、まずは肝心なこと忘れていないか? お嬢に時間ってあまりないんだろ?」
そうだった。カムラはケレントに奪われている。今でこそ、意識はこちらにあるが、その意識が本体の方へと戻ってしまえば――。
「ごめん、カムラ」
「いいよ、行こう。って、あっ。あの、出口ってどこです?」
「ええ、出口はあの通路を通って突き当たりから右へと行けば、出られますよ」
三人は調査員に頭を下げてお礼を言うと、出口の方へと向かうのだった。そんな中、アルフレッドは眉間にしわを寄せていた。
フレイヴと調査員の話を聞く限り、ここは島自治区。ただでさえ、その島の領土を所有する独立の国の国民であっても、出入りに制限はあるのに。よその国である新王国の人間なんて絶対渡航はできないはずなのに。
――なんであの男はここにいるんだ?




