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フレイヴが目を覚ますと、そこは一面の花畑だった。暖かい空気がその場を包み込むようにしている。なんて温かい場所なんだろうか。そう思った矢先、右手に誰かが握っている感覚があった。いや、隣に誰かがいる。
誰なのだろうか。そちらを見ると、そこにいたのは穏やかな表情で眠っているカムラだった。しかし、彼女であっても、服装も違えば、どこか漂わせている雰囲気も違っている。カムラであるが、カムラではない誰か。
誰だろう。そう思って、起こそうとするのだが――。
「フレイヴ!」
視界は真っ暗になったかと思えば、それは目を閉じていただけである。フレイヴはそっと目を開ける。そこに映し出された光景はこちらを心配そうにしているカムラとアルフレッドであった。
「二人、とも?」
どうして、そんなに不安そうにしているのだろうか。体を動かそうとしたとき、急に咽た。仰向け状態で咳込むより、横を向いて咳をしたかった。フレイヴは体を丸めて大きく咳をする。喉の奥から水が出てきて気持ちが悪い。何があって、何が起きたのか把握できない。確かナズーに追いかけられて、走って逃げた先が――。
何とか落ち着きを取り戻したフレイヴは改めて、上体だけを起こして周りを見た。そこは水辺のある遺跡のような場所。石畳の上には苔が生えていた。自分たちがこうしている、ということはナズーから逃げられたという証拠だろう。
「お前さん、大丈夫か?」
アルフレッドは自分の服に吸いついた水気を落とすために絞っている。この質問にフレイヴは小さく頷く。
「海の中では泳げたと思ったんだが」
「流石にあのときは心の準備がありましたし……」
「まあ、そっちのお嬢が助けたからな。俺じゃなくて、そっちに礼を言っておけよ」
アルフレッドにそう言われ、フレイヴはカムラの方を見た。そこで気付いたこと。彼女は自分の右手を握ってくれていたということだ。それで思い出す。誰かが右手を掴んで引っ張っていた、ということを。
カムラに頭を下げた。
「助けてくれてありがとう」
「ううん、いいんだ。フレイヴに死なれちゃ困るから」
そう言うカムラの表情はどこかで見たことのある雰囲気のような気がしたが、そちらよりもここはどこなのだろうか。島自治区内の地図はない。島の中の地理に詳しくない。だからこそ、自分たちがするべきことは一つだけである。この水の遺跡の内部調査だ。三人は自分たちが入ってきた入口を見上げながら、足場のある奥の方へと歩を進めるのだった。




