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絶対に見つかってはいけない船内で、軍警備員とは違う浮浪者らしき男に見つかってしまったフレイヴ。突然男によって強引にコンテナの中へと引き込まれてしまった。しかも、彼の腰にある革の鞄から血塗れのナイフが覗かせているではないか。
それを見て殺される、と心臓を絞られた気分になる。このあやしい男、もしかしすると、指名手配犯ではないだろうか。逃げていたところをこうして自分が見つけてしまったのだ。そうとなれば、男がすることはただ一つ。
だとしても、殺されてたまるか。男から逃げようとするのだが「お前さんもだろ?」と同調してきた。
「島自治区に逃げようとしている新王国民だろ?」
「え」
「安心しろよ、俺もそうだ。いやぁ、仲間がいてなんか嬉しいな」
歓喜の声。どうやら、この男――アルフレッドというらしい。アルフレッドからの話を聞く限り、フレイヴと同じく新王国出身であり、罪を犯して逃げてきたらしい。
「俺も俺だが、お前さんはその年で何かしらの疑いをかけられているのか?」
事実そうではある。フレイヴは一度、新王国軍人からの聴取から逃げてきたようなものなのだから。今頃、血眼にはならなくとも、自分を探しているのは間違いないだろう。そろそろ、国中に指名手配みたいな感じで国内の軍支部にも捜索依頼書が出回っているかもしれない。だが、そのことをアルフレッドに話したとしても、カムラのことを話さなければならない。彼にとって、この男はまだ信用ならない人物だ。オルチェやケレントと言った汚い人間もいるから。それだからこそ「ええ、まあ」と曖昧に答えた。
「おじさんもバックヴォーンさんに紹介されて?」
裏ルートを知っている人物だ。きっと、ケレントを頼ってきたに違いない。そう思っていたのだが――アルフレッドは違う、と答える。瓶詰の中身を空けて、半分をフレイヴに与えた。
「俺の場合は不法入国だな。そこからしばらくの間、この国にいたんだが……どうにも軍からは逃げられねぇ。だから、俺は出入り制限が厳しいとされる島にな」
「それなら、島にも巡回する軍はいるでしょうに」
「いやいや、島中じゃ軍の見張りはいないらしい。いるならば、出入口だけだ」
なるほど、とフレイヴは瓶詰の中身を食べながら安心した。一番気をつけなければならないのは島の行き来だけなのだ。島の中ではあまり気を張らないでいられそうである。
「しっかし、お前さん。若いくせにしてあのバックヴォーンってやつと知り合いなのか? どれほどまでヤバいことをしてのけた?」
「バックヴォーンさんのことを知っているんですか?」
アルフレッドが感嘆を漏らすほどだ。そこまでして、ケレントは悪名名高い人物なのか。そう思うフレイヴの質問に彼は「おうよ」と言う。
「バックヴォーンって……ケレント・バックヴォーンだよな? あいつだったらヤバいぜ」
どれぐらいヤバいかって言うと――。
「個人で私軍隊を持っているからな。なんだったら、下手すれば国の軍を動かせる権力があるらしいからな。そこまでにおいて裏社会で生きている連中の誰もが知っているし、敵に回したくない野郎だろ」
つまり、本気を出せば一人の人間の存在を消すのも簡単だということだ。それほどの巨大な組織を動かす人物なのである。それを聞いて、フレイヴは思わずポケットに仕舞い込んでいた千切ったページに触れた。今感じている思いは複雑なのである。




