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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第六章 渡航と犯罪者◆
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66ページ

 しんとした場所、遠くから微かに波の音が聞こえるだけ。それと、自身の心拍音。フレイヴはコンテナの中でじっとしていた。身動きは僅かながら動ける。だが、足を伸ばしたりすることはできない。心身ともにつらいと思う。それでも、一番安心できるのは誰かが、軍警備員がここら辺を巡回している音がないことだった。


 今から体感時間にして十時間ほど前からこの状態だ。フレイヴが潜んでいたコンテナが音を立てて、船に積み込まれるのを確認した。外では係員らしき者たちの会話が聞こえていたし、実際にコンテナが持ち上げられるような感覚を感じていたからだ。その中にいて、足場が不安定に揺れていることを察するに、現在は航海中なのだろう。と、いうことは――だ、ケレントの妹が言っていた通り、ここから動いて行動するのは自己判断となる。この場所から出て、もっと比較的安全な場所に隠れるのもよし。船を乗っ取って、係員たちを自分の言いなりにさせるのもよし――だとしても、後者はかなり分の悪い作戦だ。しかし、ずっとここに隠れていたとしても、荷物検査で見つかってしまえば、アウト。そう考えた彼はそっとコンテナの蓋を開けてみた。開けた瞬間に波の音は大きく聞こえてくる。周りに軍警備員はいないようだった。


「誰もいないな」


 周りに人すらもいない、と確認したフレイヴは早速行動を移しにかかった。まずは食料調達だ。独立の国の首都に着いてから何も口にしていないからである。ここは荷物置き場だ。多少の食べられそうな物を一つや二つともらったとしても、何も問題はあるまい。罪悪感こそはあるものの、コンテナの中で何十時間と飢餓で動けない状況の中で捕まってしまったり、殺されたりする方が勘弁だから。それだからこそ、「これは正当だ」と自分に言い聞かせないと、やっていられなかった。


 この場にある荷物を漁る。何か食べられるものは、と近くにあった木箱に触れようとしたときだった。


「誰だ?」


 後ろの方から声が聞こえてきた。見つかってしまった、と焦るフレイヴは勢いよく顔だけを声の方に向ける。そこにいたのは軍警備員――というにはどこか違うような格好をした中年男性だった。男は手に瓶詰された食料を持って、こちらを不審そうに見ていた。


「子どもか……?」


「そういうあなたは?」


 軍警備員ではないと確信したのか、その男の方に向き直った。すると、彼はフレイヴの手を引き始めた。


「えっ、ちょっ、ちょっと!?」


「大人しくしろっ」


 自分が隠れていたコンテナとは違う場所にフレイヴは引き込まれてしまうのだった。この中年の男は何者なのか。腰に提げられた革の鞄から覗かせるのは血塗れのナイフであると今更ながら気付くのだった。

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