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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第六章 渡航と犯罪者◆
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64ページ

 フレイヴはケレントに大人しく本の姿をしたカムラを差し出すしかなかった。それ以外、何もできなかったからだ。逃げる場所なんてない。後ろには屈強な男が武器を手にしてこちらを見ているのだから。


 カムラは『大丈夫だよ。』と一言残しているが、大丈夫ではなかった。手元に残ったのは一枚の破ったページしかないのだから。だからこそ、ほぼ独りという表現が正しい。これから先、何事を解決するにも独りでやっていなかければならないのだ。ナズーの謎も、魔王のことも。フレイヴが悔しそうな表情で俯いていると、ケレントが「知りたいんでしょ」と言葉を投げかけてきた。


「島自治区への渡航方法」


「あっ、はい……」


 正直言って、カムラがケレントの方にある時点で情報を聞く気にはなれなかった。それでも、魔王のことが知りたければ、天使物語を調べなければならないのだ。フレイヴは千切ったページをメモ紙として扱うことにした。


「この町から南の方角に行くと、港が見えるはず。そこで俺の仲間を配置させているから、そいつに従って船に乗れ。だが、軍警備に見つかったら……それは知らない。ただ単に、きみの運が尽きたというだけだからな」


 どうやら、自分を安全に渡航させる気はないらしい。いや、ケレントが知っている島渡りは裏ルートになるのだ。リスクが大きくて、常に危険が伴うのは当然の結果か。それに、フレイヴは後戻りができそうにない。カムラを失ってしまった状況で、ナズーに対抗する術が一切ないまま、港へ向かうしかないのだから。

 ケレントの言う港の方へと向かうと、いかにもこの町らしい雰囲気漂う、陰気臭い海が見えた。海とやらは青いという認識――本や色んな人に教えてもらった。だが、実際に見てみると、まるでナズーの体躯に似た黒い色だ。不安な色とも言えそうだ。フレイヴは千切ったページが入っているポケットに手を入れた。それを取り出すと、カムラの『大丈夫だよ。』の文字と自身がメモした渡航方法があった。裏にはこちらも自分が書いた『寂しい』と『つらい』が記載されている。彼にとって、まさにそのような現状であった。果たして、独りでできるだろうか。


 ここで悩んでいても仕方がないとして、ケレントの仲間を探した。どのような人物であるかも知らされていない。ただ、教えてくれたのは、仲間は女性であるということ。そう言われても、その女性とやらはここ――港でたくさん行き交っているではないか。誰が誰なんてわかりっこない。フレイヴが困り果てた様子で項垂れていると、誰かに肩を叩かれた。誰だろうか、と――まさか、軍警備員だろうか。そちらの方を見れば、そこら辺にいそうな若い女性がいた。唐突に何だろうか、と彼は「えっと?」と首を傾げる。


「ぼくに何か用ですか?」


 その質問に女性は耳を貸せと言ってくる。フレイヴは耳を貸すと、彼女は囁くように「きみでしょ?」と小さく笑う。


「島に行きたい子って」


 自ら声をかけてくるとは思いもよらなかったフレイヴは、大きく目を見開いて、思わず頷くのだった。この女性がケレントの仲間? とてもそうには見えなかった。なぜって、その女性は明らかに裏社会なんて関わりを持たなさそうな雰囲気を持った人だったからだ。戸惑いを見せながらも「はい」と答えた。わっ、ちょっと上ずった。恥ずかしい。


「私がその案内人よ」


 そういう女性は柔らかい笑みを浮かべるのだった。

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