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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第六章 渡航と犯罪者◆
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62ページ

 第一印象は陰気臭い場所だ、とフレイヴは思った。どこか情報の町に似ている雰囲気。そこらかしこを歩く者たちは明らかにカタギではないとわかるような面持ちをしている。この街に住む誰もが裏の顔があるような、緊迫感のある通りでカムラの本を抱えて歩く。


 ほら、こちらを物珍しそうに男たちが見ている。大事そうに本を抱えているものだから、それは高価な品物だと思っているのではないだろうか。


 しどろもどろながらも、街の住人に訊いてみた。ケレント・バックヴォーンはどこにいるのかを。オルチェは首都の七番街に住んでいるという情報しか与えてくれなかった。それ以上の情報は自分たちで探さなければならない。これも自分たちが『敵』であるのかといわれると、そうとは思わない。感情的云々でもないはず。おそらくは彼の性格からなのかもしれない。仕事場と自宅は全く片付いていなかった。ごみが溜まっていた。だから、とフレイヴは街の一角にある建物を見上げる。そういう風に思わなければ、オルチェは自分たちに情報など与えるはずもない。一生混乱させて、隙をついて殺される。それだからこそ、小声でカムラに言うのだ。


「あとでオルチェさんに列車代をせびればいいさ」


 そう、二人の目の前にある五階建ての雑居ビルこそケレントがいるらしいという場所である。確信ではない。ただ、街の人たちがここに住んでいるという情報を教えてくれた。たとえ、その情報が偽物でも二人は不確かな情報にすがらなければならない。


 天使物語とは何か。それとナズーの親玉である魔王とはどのようなつながりがあるのか。オルチェは言っていた。知りたければ、行ってこい、と。


 フレイヴは大きく深呼吸をした後、雑居ビルの扉に手をかけた。ギイギイと錆びた音が聞こえる中、この建物に人気がないのは薄気味悪い。掃除されていないビル中は明かりすらもつけられていなかった。一歩歩く度に靴の音がやけにはっきりと聞こえていた。この音、ケレントは――誰か気付いているだろうか。


 片っ端からあるドアにノックをかけながら、入室した。誰もいないという一言で終わってしまうほど人の気は一切ない。不気味だ。もしかすると、ここは廃ビルなのではないだろうか。そう思ったカムラは「ねえ」と小声でフレイヴに話しかけてくる。


「あたしたち、嘘をつかれたかも」


「え?」


 ノックをしようとする手は止められた。それに伴い、カムラは話を続ける。


「あの野郎が紹介するやつで、更にそいつが住んでいる街だ。誰もがろくな連中じゃない」


「……まだ最後の一部屋があるだろ?」


 その通り。二人は残すところ一つの部屋の前に立っているのだ。そういうことは調べてから言うべきだ、とフレイヴが口にしながらノックをする。そうすると、中から「はい」と確かな声が聞こえてきた。


「どうぞ」


 まさかの人がいた。この事実に二人は驚愕しながらも、部屋の中へと入った。部屋の中には一人の若い男が椅子に座って足を組んでいたのだ。この人物が――とフレイヴは「あの」と早速質問をする。


「あなたがケレント・バックヴォーンさんですか?」


「いかにも」


 男――ケレントは愛想のいい笑顔をこちらに向けていた。その表情は素直に受け取っていいものだろうか、と少しだけ悩ましい。


「えっと、ぼくたちオルチェさんに紹介してもらってここに来たんですけれども……」


「オルチェ……ああ、あいつか」


 オルチェとは知り合いであることは間違いないようだ。ケレントは「それで」と本題に話を振ってくれた。これにフレイヴがナズーと魔王のことについては伏せて、自分たちが島自治区へと渡りたいという希望を伝えた。


 粗方の話を聞いて、ケレントは頷いたりして相槌を打ってくれた。話ぐらいは聞いてもらえてよかった、と思う。問題はそれから先のことだ。ややあって、フレイヴは――。


「それで、島自治区へと渡航する方法を教えて欲しいのですが」


 この依頼にケレントは小さく息を吐くと、フレイヴが手にしているカムラの本を指差した。相変わらず、愛想のいい笑顔は絶やさない様子。


「いいけど……渡航に関するこちらの報酬はその赤い本だよ」


 その言葉に対して、フレイヴは本を強く握りしめる。これの答えは――「嫌です」


 なぜって、独りは嫌だから。唯一、自分の気持ちを理解してくれている友人がいなくなるのはとても寂しいし、つらいから。

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