61ページ
島自治区。その島はフレイヴたちが住まう新王国の隣の国である『独立の国』が所有する領土である。だが、そこはそうそう簡単に行き来ができないとオルチェは言う。理由は島全体が独立の国にとって保護地域に指定されているため、新王国人はおろか自国の人間であっても難しいらしい。国に保護されている。それもそうだろう、なんせ宗教、神話関係にも絡んでいそうなのだから。
島自治区に行って、天使物語を調べてこい。聞こえは簡単そうだが、渡航制限について聞けばどうすることもできない。独立の国の人間であっても、入ることができそうにもないというならば、行くだけ無駄ではないだろうか。なんてカムラが文句を言っていたのだが――。
現在、カムラは本の姿になって列車の窓際に置かれていた。その隣の座席にはフレイヴが着座している。彼はなけなしのお金で席を買ったのだ。もちろん、一人分。彼らは周りからあやしまれないためにも本の中で会話をするのであった。
『バックヴォーンさんってどんな人だと思う?』
ケレント・バックヴォーン。オルチェ曰く、島自治区への渡航方法を知っているらしい。その人物が所在している場所を教えてもらったのだ。そのメモ紙――と言っても、書くものがなかったため、カムラの本に記載している。それを見た。丁寧に書かれた字面。これはフレイヴの字である。どうやら紹介する人物は独立の首都の七番街にいるとか。それ以外の情報は一切なし。
この質問に対して、カムラは『クソ野郎に決まってるでしょ。』と即答した。あの裏のありそうなオルチェが紹介するほどの人物だ。フレイヴにとって、ケレントはあまり好ましい人物だとは思わない。それは彼女も同様だった。丁寧な字で書く彼とは対照的に、まるで殴り書きのようにして文字を浮かび上がらせるのだ。
『あいつの性格は最悪だし。』
それが当然だと思っているのか。今度はカムラが予想するケレントの人相を浮かび上がらせてきた。いかにも小さな子どもが書きそうな下手な絵。これにフレイヴは苦笑いをする。下手くそではあるにしても、少しは味があるようだ。いや、彼はあまり芸術のことが詳しいというわけではないが。もちろん、彼女だってそう。だが、これは今どうでもいい話である。
話を元に戻そう。浮かび上がった絵に向かって、『クソ野郎に決まっているでしょ』という字に矢印をつなげて、今度は別の文章を写し出した。
『クラッシャーの部下。性格はとっても悪くて、意地が悪い。金にがめつい。酒やタバコをこれでもかというほど嗜む。女ったらし。想像していて、気持ち悪くなってきた。』
『想像するからでしょ。でも、ぼくらが予想するのとは正反対の人だったら、いいよね。』
そう思いたいフレイヴは心の中で小さく願う。どうか、優しくて思いやりのある人でありますように、と。そんな思いとは裏腹に、カムラは『絶対ありえないから。』と高を括る。そして、それは本当に現実のものとなることを彼らはまだ知らなかった。
「渡航に関するこちらの報酬はその赤い本だよ」
一人の若い男は本の姿のカムラを指差して、フレイヴにそう告げるのだった。




