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世界は二つの国が統治しています。一つが『新王国』。もう一つが『独立の国』です。実は、昔は二つだけの国が統治する世界ではなかったのです。
初めに一つの国が建国されました。国が生まれて、人々は生活が豊かになると信じて疑いませんでしたが、その国は独裁的な政権ばかりで国を圧政。これに国民は怒りを覚え、自分たちにとって都合のよい国々を作るべきだと立ち上がりました。国の周りに存在する自治区に所在するリーダーたちは革命を、クーデターを起こします。それで独立していったそれぞれの自治区。もとい、独立した国々。もちろん、これまでに圧政を強いていた国――『新王国』は許さないと言わんばかりに、周りの国々へ戦争を始めます。それは自分の領土を返せと言っているようにも見えました。
やがて、その戦争で残ったのは『新王国』と『独立の国』だけです。世界統一か、それとも復権の臨みかと思われましたが、ここまできて謎の生物であるナズーが現れるのです。ナズーの被害状況に、戦争を停戦せざるを得ない状況に陥ってしまいました。この半端な終わりに互いの国は冷戦状態へと持ち込まれるのですが、こちらの問題よりもナズーの問題を優先させるべきだと両国の王は判断します。こればかりは、と停戦協定と共戦同盟を結ぶことになりました。
結託をしたかのように見せた二つの国ですが、まだまだ手を握り合っているのは上辺だけです。どちらの本心は睨み合いの状態なのです。そのため――。
世界郷土物語:「世界の分配とその役割」より一部抜粋
魔王は新王国と独立の国の狭間にいる。オルチェの言葉にフレイヴとカムラはじっと耳を傾けていた。なぜにそのことを知っているかを問い質している暇があるならば、もっと有益な情報を手に入れて、ナズーの元凶を倒したかったのだ。次の言葉を待っていると「そのなりで行く気か?」なんてからかってくる。今の二人の状態で魔王に会っても、勝てないと思っているらしい。それは嘘でもなければ戯言でもない。事実だ。カムラ独りで太刀打ちできるかと言われたならば、閉口せざるを得ない。また、フレイヴに至っては何度も記述するが、戦うということにおいて消極的であるし、慣れていない。
「情報は大事だよな?」
「だったら、もったいぶらずに全部教えてもらいたいものですが」
そう、事前情報も大事。だからこそ、二人はまだ待つ。オルチェの情報を。むかっ腹立つような発言をしていたとしても。自分たちの目的を達成するならば。
オルチェは言った。
「お前ら、『天使物語』って知っているか?」
「いいえ」
「独立の国の島自治区に伝わる神話だ」
戦わなくていい、と判断したのかカムラは元の少女の姿に戻った。
「それが魔王を倒す手掛かりになると? だったら、その話を教えてくださいよ」
カムラが人間の姿になったことを確認すると、フレイヴがそう訊ねた。オルチェはナズーに関する多大な情報を持ち合わせている。だからこそ、ここで訊いてあとは魔王を倒すだけだ。しかし、二人が求めていた答えを口にすることはなかった。「はあ?」と煩わしそうに片眉を上げる。
「どちらかっていうと、敵の二人になんでそこまでして俺が教えてあげなくちゃならないんだよ」
オルチェの言い分はこうだ。自分で調べろ。これにカムラは「はあ?」と同様に片眉を上げた。
「散々教えてきたのに? ここでだんまりかよ。冗談じゃねぇ」
「なんだよ、お前。女のくせにして口が悪いな」
それもそうだ。カムラは元男であるのだから。だが、それを口にすることはない。発言するのは「どうしてか」という理由を聞くために尋問をするだけ。
「ぼくとは敵でもないのでは?」
「そいつと一緒にいる時点で敵でも変わりねぇだろ。俺はお前単体で『どちらかと言うならば』という強引な解釈を教えてあげただけだ」
そもそも、人に対して武器を向けてくるやつを味方だと捉える気にはなれない、と言う。これ以上、揺さぶったとしても何も出てこないか。そう諦めざるを得なかった。ここで口論する気にもなれないし、ある程度欲しいと思っていた情報を得ることができたからだ。あとは自分たちで見つけ出して――平和な世界を手にするだけ。フレイヴは未だとしていがみ合っているオルチェとカムラを引きはがした。そして、彼女に「行こう」と指示を出す。
「場所はわかっているんだ。独立の国の島自治区、そこに行けば『天使物語』とやらの話はわかるんでしょう?」
「そうだな。だけれども、そうそう簡単に島に渡れないからな」
それをわかっていながらどうして行かせようとするのか。他に『天使物語』を知る方法を探すべきか、とカムラを連れてフレイヴがオルチェの家を後にしようとするのだが――。
「おい」
なんてオルチェは一枚の紙切れを渡してくる。
「そこに島に渡る方法を知っているやつの連絡先を書いている。行くならば、会ってみれば?」
どちらかと言うならば、敵だから情報を教えないと言ってくるオルチェ。それなのに、思ってもいなかった情報だけは提示してくるのだ。あやしいと思いつつも、手掛かりを得るためにはそれしか方法はないのだ。つまり、彼を信用するしかない。敵だ、と口走る男を。




