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オルチェがカムラの敵。クラッシャーであることぐらいは知っている、昔から。いや、そうでなくとも一目見ただけでわかった。あの青色の小屋で見たときから。
【あいつは絶対俺らの、あたしらの敵だね】
【あいつはあたしが探し回っていたクラッシャーだね】
敵であるならば、とカムラは自ら剣の姿になって、それをフレイヴに握らせた。刃先を自身の意思でそのままオルチェの方に差し向けるのだが、この攻撃は灰皿によって防がれてしまった。金属音が鳴り響く中、周りには吸い殻がこぼれ落ちる。これに「あーあ」と嘆きつつも、苦笑を浮かべる。
「おいおい、危ねぇな」
「危ない? あたしとあんたが敵対しているんだろ? その敵を倒すのは当たり前」
どうやら、フレイヴも当然だと思っているらしい。カムラに加担するようにして、剣を握る力を強めた。
「おぉ、怖ぇな。でも残念。俺はお前が思っているほど大物じゃねぇぞ」
ぎりぎりと金属と金属が触れ合う音が部屋中に聞こえる。彼らはその手を止めようとはしない。そんな中でカムラが「じゃあ、囮とか?」と訊ねてくる。
「その大物に足止めをしとけって命令でもされた可哀想な囮さん? うっわぁ、可哀想。見てられなぁい」
「確かにそうだけど、見てられないなら見逃せよ。言っておくが、俺のご主人様は『あいつ』に殺されたからな」
オルチェのその発言に、彼らの話がわからないフレイヴの手が一瞬だけ緩まる。それが隙だというようにして、押しつけていたその力を塞がれてしまう。その事実はよほどのショッキングだったようで、カムラは「嘘?」と訝しげである。
「いつの間に? 簡単に殺されたって言っても……」
「こんな状況で冗談は言えねぇよ。すべて事実だ」
オルチェはそう言うと、この状況に着いていけていないフレイヴの方を見た。
「言っておくが、お前にとっての俺はお前の敵でもなければ、味方でもない」
「意味がわからないんですが。この前もそう言っていましたよね? ぼくには理解できない物言いで。『あいつ』って誰のことですか?」
先ほどから『あいつ』、『あいつ』。フレイヴは『あいつ』とやらに監視をされている? それともカムラのこと? 自分が知らない真実の何かを二人は知っているようだった。その事実の種を目の前にぶら下げた状態でこちらを弄んでいるように見えた。人で遊ばないで欲しい。こちらにも情報を寄こせ。
流石に教えてあげないと、可哀想なのか。そう思ったオルチェは『あいつ』のことを教えてくれた。
「『あいつ』とはナズーを生み出した魔王よ」と。
この言葉にフレイヴ――いや、カムラも硬直するしかなかった。状況が状況なだけに頭の中での情報処理が追い着いていけそうにないのである。




