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男の言う通りにするべきだろうか。悩ましくも、二人は「広場で待っとけ」という言葉に従うしかなかった。これを信用してもいいのか甚だあやしいことには変わりないのだが。
そうして、辺りが薄暗くなった頃になってから男は酒瓶片手に彼らの前に現れた。酔っぱらっているのかは定かではないが、酒くさい。その一言で片付く説明であった。何をするのかと思えば、彼は適当に花壇のふちのところに座り込んだ。そうして言うのだ。何も問題はない、と。
「ここには流石に『あいつ』の目は届かないさ」
男の言う『あいつ』とは誰のことを差すのか。これに二人が不審そうにして顔を見合わせていると、男が「監視の目のことだよ」と笑う。何がおかしいのか。いや、そもそも監視の目というのは、ここは人通りが多いからということか? いいや、待て。なぜに自分たちは監視されている? 誰が監視をしているというのか。そのことについて、問い質そうとするが、男は立ち上がり「着いてこいよ」とどこかへと案内しようとした。着いていってもいいものだろうか。不安がるフレイヴにカムラは「あたしもいるから大丈夫」と言葉をかけてくれた。その安心できる優しい声に彼は「うん」と頷くと、あやしげ満載である男のあとを着いていくのだった。もしも、何かあったとしても、心配は要らない。カムラがいる。何かがあれば、彼女と共に逃げるが得策だろう。
二人が男に着いていって、辿り着いたのは一棟のアパートだった。ボロボロで今にも倒壊しそうな外見が特徴的である。その一室へと案内されると、これまたキツイ。タバコとお酒のにおいがプンプンと漂っているではないか。部屋の中のテーブルの上にある灰皿からは少量の灰がこぼれているようだが、よく火事にならないな。ごみはいつ頃捨てるつもりだろうか。溜まりに溜まった袋たちが床のそこかしこに落ちまくっているではないか。なんとも汚い家。その評価を彼らがつけていると、男は「外ではあんまり言えないからな」とその場でタバコに火をつけた。
「色々と厄介事が重なっているし」
「それで、ぼくたちをここに誘い込んで何をしようと?」
「何って、お前たちに情報をあげようとしているんだけど? 何? 要らないの?」
「それは要りますけど、あなたが考えていることは、ぼくたちにはさっぱり理解ができない」
それもそうだな、どこから話すべきか。そう男はしゃべる順番を考えている様子で、ややあって彼は「始めに」と口を開き出す。
「俺の名前はオルチェ、とでも言っておくか。俺は『あいつ』の敵でもある存在」
「はあ?」
次にオルチェと名乗った男はカムラの方を見て言うのだ。
「そして、俺は『お前』の敵でもある存在だ」
この事実を『当然』であるかのようにして「そう」と返事を返す。
「それは知ってる」
不敵に笑みを浮かべながら。




