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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第五章 ナズーとその黒幕◆
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54ページ

 カムラはどちらかというならば、高価な食材をふんだんに使った料理の方が好きである。なぜならば、安価なものは高価なものよりも劣化しているからだ、と熱弁する。それも、大衆食堂の従業員に聞こえるような音量で。


「ちょっと、カムラ!」


 それに慌てて口を塞ぐフレイヴ。なんという失礼極まりない発言をするのか。向かい側の席に座っていた戦友軍の一員でもあるグスカに至っても、彼と同様の考えを持っているようだ。


「何もおかしなことは言っていないはずだけど?」


 事実、そうである。誰もが納得するような意見であると思えるが、その発言は『今』この場で言う必要はないし、言うべきではない。何を考えているんだよ。


 店の従業員は怒りと困惑を混ぜ込んだような表情をしつつも、こちらのテーブルに注文した料理の品を置いていく。これに申し訳なさが際立つ。このことについて、謝罪するべきかと迷いを見せていたが、従業員は立ち去ってしまった。カムラに注意をしようとするが、すでに「いただきます」と食事を始めているではないか。この状況でも説教してやってもいいが、食べている最中だ。ご飯が美味しくなくなるに違いない。そのため、フレイヴは何も言えずに「いただきます」と自身の食事にもありつくのだった。


 二人がぼそぼそと食事を採る中、一足先に食事を終えていたグスカはクルレラからの手紙を眺めつつ「あのさ」と彼らに話を振った。


「軍に手伝ってもらったって言っていたけど……二人がナズーを倒したって、クルレラの手紙にはあるんだけれども。そもそも、手伝ってもらったって? 二人は退治しようとしたのか? だとするなら、俺にはそう見えないんだよな。見たところ、武器を持っていないし」


 これにフレイヴの手は止まった。武器はある。隣に。その隣で美味しくなさそうと文句を垂れていた割にはばくばくと料理を口に運んでいるカムラが。だが、そのことについて言ってもいいものだろうか。通りすがりの町では彼女が誤魔化してくれた。もっとも、黙っていれば、バレないのだが――それは同時に嘘をつくということになる。彼は嘘をつくということが好きではない。嘘をついた、つかれた。どちらの目に合っても、気持ちのよいものではないのだ。むしろ、嫌悪感が増す。『嘘』というものに塗り固められた日になれば、すこぶる気分は悪くなる。それは誰だってそうなのだが、フレイヴはその人一倍である。そのため、彼は隣で肉を突くカムラに声をかけた。呼びかけられて、話の内容を聞いていた彼女は「いいんじゃないの?」と事実の発言に賛成のようだ。別に隠さなくてもいいか、という考えか? あれだけ、誤魔化そうとしていたのに。


「嘘ついてもしょうがないし」


「でも、これはぼくたちに危険が及ぶかもしれないって言ったのはカムラだよ?」


 元より、軍の聴取を逃げるようにしてきたフレイヴだ。この非政府組織である戦友軍の根城だとしても――いつ、どこで軍人たちが話を聞いているかわからないのだ。だから、彼には言うか言わないかで迷いが生じている。そんなためらいに痺れをきらしたのか、カムラは「ああ、もう」とフォークを皿の上に置いた。


「軍に手伝ってもらったってのは嘘」


 おそらく、クルレラは言葉足らずで手紙に記入しているはず。ただ、向こうには新王国軍が倒したと言ったとしても――戦友軍にそのことを言うのは好ましくないだろう。なんせ、戦友軍は非国家間組織だ。ナズー討伐においても、色々と書類関係が面倒な間柄なはず。それならば、まだ双方確認を取らないでいい、自分たちがやったと言ってしまえば問題ない。まあ、それを言ったところで信じてもらえるかは想像つかないが。


「あたしたちがナズーを倒したのは事実」


 意外にも店内に響くカムラの声。客は大勢いる。隣の席からカウンター、厨房にいる従業員にも。それでもお構いなしに言い放った。


「そして、あたしはただの人間じゃない。ナズーに、この世界を闇に陥れようとする野郎の対抗馬として存在してんの」


 カムラは言ってしまう。武器として存在もしている、という事実を。

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