52ページ
戦友軍の一員となるのは、国の軍に従事できるほどの誉れとも呼べることだったりもする。そのため、軍を退役した人であっても、怯える市民を救わんとしてそこへ入団することが多いのだ。その戦友軍の本部では町中とさほど変わりのない、武器を手にした兵どもたちがいた。なんというか、ここにいることが場違いのような気がする、とフレイヴは思っていた。自分たちだけ丸腰状態なのだ。いや、隣には武器になる人はいるのだが。
フレイヴは隣で呑気に欠伸をしているカムラに目をやった。なんという器のでかさだろうか。流石は空気を読もうとしないことだけはある。ここに来るまでも緊張しまくっていたのに。ある種で尊敬する。そう、彼が苦笑を浮かべたときだった。受付嬢が「お待たせしました」と声をかける。
「申し訳ありませんが、グスカさんは今日、非番だそうです」
「それじゃあ、今日はここにいないってことですか?」
「はい。お手数をおかけしますが」
「いえ、ありがとうございました」
いないのは仕方がない。そういう気持ちでフレイヴは頭を下げると、戦友軍の本部をカムラとともに後にした。本部施設から少し離れたところでカムラが「ねえ」と思い出したように声をかける。
「どうせ、あっちの方に行ったなら、ナズーを知っている人のことを訊かなかったの。手間が省けるのに」
そう言われると、そうなのだがフレイヴは「うん」と小さく頷く。
「確かにそうだね。でも、先に自分のことより、グスカさんを探さなくちゃ。クルレラちゃんの手紙もあることだし。それに、グスカさんからその人にぼくたちを紹介してもらった方が、話は通しやすいかもしれないだろ」
何より、ここは英傑の町。目的地であるこの町は誰もが太刀打ちできないようなナズーが襲撃してこない限りは崩れない。そう、フレイヴはナズーが町を襲わないかの心配をしていたのだ。だが、ここまで屈強な戦友軍がいるならば、多少の問題はあるまい。それだからこそ、彼はクルレラの手紙を先に終わらせようと思っていた。
「グスカさんは非番だって言っていたから、もしかしたら酒場とかにいるかもね」
「そうだとしても、昼間から酒を飲む親父を持つ子は可哀想だね」
カムラはそう小ばかにしながらも、たまたま通りかかった武人に「すいません」と軽く声をかけた。
「この辺で昼間から酒を飲む子持ちを知りませんか?」
「は?」
当然だ、と言わんばかりに「失礼しました」と流星がごとく、頭を下げるフレイヴ。更にカムラの頭をわし掴みにして平謝り。
「いったぁ。何? フレイヴ」
自分が頭を下げたことに納得いかないカムラに「何じゃないよ」と肝が冷えきった様子。
「もし、あの人がグスカさんだったらどうするんだよ。失礼極まりないよ」
「大丈夫、大丈夫。娘も失礼極まりないクソガキだったでしょ。おあいこ!」
この開き直り。フレイヴが大きくため息をついたときだった。背後から「そこの」と呼びかけられる。そちらの方を二人が見ると、これまた腕っぷしに覚えがありますよ、とでも言ってきそうなぐらい筋肉質の豪傑が現れた。町を歩く武器を持った者たちとは違って、この人物は何も持っていないようである。誰なのだろうか、と思う反面――誰であるのかの予測はついた。
「俺を探していたんだろ? 何の用だ?」
そう、この人物こそ戦友軍の一員にしてクルレラの父親であるグスカである。彼を見て、カムラは「似てない」と心の中で思うが、それは流石に口にすることはなかった。




