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カムラはご馳走になると、今度は「しばらくこの村に泊めさせてくれ」とお願いを申し立ててきた。もちろん、人のいいフレイヴの母親は構わないと答える。
「フレイヴ、どうせなら村長さんのところに、一緒に行ってきなさいよ」
「うん」
一応は村の長にカムラの件を含めて報告するべきだろう。そう考えたフレイヴは彼女を連れて村長の家へとやって来た。ちなみにゾイは家へと帰した。彼とは家が隣同士のご近所さんなのである。早速、村長にこれまであったことを怒られる覚悟で話した。なぜに怒られるのか、それは――。
【あちらの方に行ってはいけない】
そう、今日に見つけたあの青色の小屋の方へ勝手に行くことを村の掟で禁じられていたのだ。それを破ってしまったがために、彼らは――。
「あれほど行ってはならないと言っただろうがっ!」
こっぴどく叱られた。ここにゾイを連れてこなくてよかった。彼は村長に怒られるのを恐れているから。前に叱咤されて大泣きしていたから。それが可哀想だと思い、その罪も被ってあげるつもりだったのだ。
「ごめんなさい」
どんなに言い訳しても、目に見えている。だから、最初から「ごめんなさい」という謝罪の言葉ぐらいしか用意はしていない。
「どうしても気になっちゃって」
「それで、あちらの方に行って、見つけたのが彼女か。ええ? 本になるんだって?」
あやしげにカムラを見る村長。フレイヴの母親よりも状況を飲み込んで信じているらしい。自分に向けられているその目が気に入らないのか、彼女は今にも突っかかりそうな雰囲気で睨んでいた。頼むからここで言い争いだけはやめてくれよ、と気にしていると――。
「だから言ったんだ。あちらに行ってはならない、と。その結果がこれだ。人ならざる者をお前は連れてきてしまったんだ」
「わかるか?」と、そう問い詰めてくる。これにフレイヴはなにも言えない。ただ、ただ黙って説教を聞くだけ。
「…………」
「人以外の存在がこの村にいるだなんて。フレイヴ、わかっているだろう?」
村長の目を見た。そこから聞こえてくるのは『あれ』の存在だ。つまり、彼が言いたいことはカムラを『あれ』と同列に見ているということだろう。
「彼女が何者かは知らないが、この村……いや、この世界は『ナズー』でお腹いっぱいなんだよ」
だから、この村から出て行ってくれないか、と白い目を向けてきた。それに対して、カムラはまだ何も反論しない。雰囲気だけは突っかかりそうなのに。村長は明らかに、はっきりと彼女を見て勝手な断言をする。
「このバケモノめ」と。
人間が本に変身するのは、あるいは本が人間になるのはバケモノと判断するべきなのだろうか。それとも、村長の発言は正論なのだろうか。