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フレイヴもカムラも超巨大なナズーの姿を見て、開いた口が塞がらなかった。唖然とするしかなかった。それ以外の反応をすることはないだろう。というよりも、一つの山ぐらいの大きさのナズーを『当たり前』と認識する方がおかしいからである。
「でか過ぎるでしょ」
ようやく言葉が見つかったかと思えば、率直な感想である。というよりも、こんなばかでかいナズーの相手をしろと? できるわけないだろ、これ。できないだろ。というか、神殿が壊れましたけれども? 建物が壊れてしまったら、二人に依頼を申し立てていたクルレラのペット――いんの? いたら、いたで奇跡だろこれ。カムラの頭の中で様々な万感が過る。彼女は隣に立って、同じように驚愕していたフレイヴを横目で見た。彼も彼でこの超巨大なナズーの相手をするのは骨が折れるというよりも、複雑骨折になるほどに違いない。いや、粉砕骨折という揶揄の方が似合っているかもしれない。そんな言葉のあやなんてないのだけれども。とにかく、この世にいるナズーを駆逐すべしという考えを持つフレイヴだって、戦う気はないだろう。ここは大人しく見て見ぬふりをして――。
なんて思っていたカムラの考えの方が甘かった。自分の目線が低くなってしまったからだ。何があったのか。それを理解するのに、フレイヴの言葉が必要だった。
「行くぞ、カムラ」
やっと、自分の現状を理解した。今の姿は人間ではない。フレイヴがナズーと戦うときに使う剣であるからだ。ということは、だ。彼はこの山サイズのナズーと今から戦うことになる。
「なんという無謀!?」
愚直である。カムラはすぐに止めろ、とフレイヴに言った。あまりにも歴然とした差があり過ぎる。特に大きさが。相手のことを知っていながらでも、こうしてまで立ち向かうのか。そんなもの、勇気があるとは言わない。己の力に過信でも持っているのか。だとするならば、今すぐに止めさせなければ。
「フレイヴ、ばかなことは止めろ。あんなの、どんな作戦を練り立てても、勝てないから!」
やってみなくちゃわからない、だとか。ナズーを倒したい、だとか――そのような思いがあっても、是が非でも止めさせなければ、と思った。
「これ、かなりの人数がいたとしてもっ!」
「クルレラに頼まれたから」
「はあ!? どう見たって、一個人での依頼でなんとかなるものじゃない!」
フレイヴはカムラの剣を眼前に持ってきて、真っ直ぐな目を見せた。その目の奥には何事においても揺るがない、とでも言うような信念が見えていた。彼はクルレラの依頼を遂行させたいらしい。なんというばかげた選択か。
「ペット、捜してあげなくちゃ。それと、ついでにめちゃくちゃでかいナズーの討伐も!」
これはカムラがなんと言おうが、一度決めたことは絶対に変えないだろう。こうして、死ぬのだ。強い信念を持った者が、先に。それを彼女は知っている。覚えている。だからこそ、悲観的に思うのだった。




