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カムラは憤慨していた。その理由として、町の人たちの話を聞いてわかったことがある。クルレラが指定した神殿は年に一回、町の祭事で使われる場所らしい。それで今年もそのお祭りが近付いてきているが、ナズーが棲みついてしまったため、お祭りは中止かもという話らしい。そのお祭りは五穀の実りを感謝する感謝祭だそうだ。つまりは収穫祭でもある。食べ物に関することなのか、最初は乗り気でなかった彼女も「討伐タイム!」という訳のわからない発言をする。
「ナズーのせいで、食べ物に感謝ができないなんてっ! それはもはや、皿に食べ物を乗せないということと同じに決まっている!」
「うーん、ちょっとカムラの言っているたとえわかんないや」
ナズーを倒さんとする理由は違えども、意気込みだけは同じのようだ。フレイヴはクルレラから教えてもらった神殿へと足を進めた。
「そう言えば、あのクルレラって子、ついでが大きかったからさほど気にしていなかったんだけれども。ナズーがめちゃくちゃでかいとか言ってなかった?」
今思い出すクルレラのついで発言。色々と紛れ込ませようとしていて、頭の中に入ってくる情報量が少なかったからスルーしてしまったのである。よくよく冷静に考えてみれば、そういうことを言っていたような。できれば、気のせいで済ませたかった。だが、耳に入ってきた情報も事実もそうそう簡単に変更はできない。でも、できるならやってもいいよね。
カムラは「あたしの勘違いだよね」と苦笑いをしながら、フレイヴに訊ねると――。
「ううん、クルレラはそう言っていたね。メチャクチャでかいって」
「そこ、嘘をつかないことはいいことだと思うよ。でも、少しくらいはさぁ……」
正直に答える男、フレイヴ。なんとまあ、清々しいほどまでの返事であるか。なんとまあ、偽りが一切ない爽やかな表情で言うのか。もっと己の身に降りかかっている状況に危機感を感じやがれ。
「いや、真実はきちんとあるんだから見ようよ。目を逸らしても事実は変わりないんだからさ」
「……ええ、もっともなことで」
フレイヴに何を言っても、正義感のある発言しか出てこないか。カムラが細いため息をついたときだった。足を進めていた先に見える何か。それは距離があるから小さく見えるのだろうか。白い石で作られた神殿らしき建物があった。あれが通りすがりの町の祭事で使われる神殿だろう。遠目で見ただけでは何の変哲もない建物に見える。本当にあの中に「めちゃくちゃ大きい」とされるナズーがいるのだろうか。そして、クルレラのペットもいるのだろうか。いや、この言い方に語弊があった。訂正する。
本当にあの中に「クルレラのペット」はいるのだろうか。そして、メチャクチャ大きいとされるナズーがいるのだろうか。
一見すると、この優先順位はおかしいだろう。しかし、フレイヴたちが神殿へとやって来た本来の目的は「クルレラのペット」を捜しに来たのだ。ナズーは二の次。二人は神殿の前へとやって来て、建物を見上げた。彼らが予想していた大きさと言えばそうではない。どちらかと言うならば、少しこじんまりとした建物である。大きさとしては悲しみの村はずれにあった青色の小屋と同じだ。
「あの子、めちゃくちゃって言っていたけど」
噂のナズーの大きさと神殿の建物の大きさが割に合っていない気がしないこともない。
「うーん、もしかしたらだけども。ほら、クルレラはぼくたちより小さいだろ? だから、ね?」
なるほど、個人の体感ということか。これに納得したのか、「そんじゃあ」とフレイヴの方に顔を向けたときだった。突如として神殿の建物が内側から外側へと四方八中に爆発が起こるような破壊音が聞こえてきた。何事なのか。それは建物を見ればわかる話。
「は、えっ?」
破壊された建物から現れたのはどこぞで見覚えのあるバケモノ。普通のそれは成人男性より一回りも二回りも大きいのだが、ここにいるそれは――大きいという一言に尽きる。見上げ過ぎて、首が痛くなりそうなほど。そう、そいつの正体はナズーであるが――。
でかいという一言で事足りる。サイズは大体が一山ぐらいではないだろうか、とどこか吹っ切れた様子のカムラはそう推測した。こうして冷静に目測している場合じゃないってのにね。
――大きさが割に合わねぇよ。




