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昔、フレイヴは母親に最寄りの町まで買い物を頼まれたことがあったのを思い出した。買ってくるのは家で足りなくなった調味料。家を出るときに母親は少し慌てた様子で【あとね】
と付け足しをしてくるのを。
【道沿いにあればの話だけど、ついでに野草もあったら採ってきてね】
聞いたことのある「ついで」というものはそれぐらいだ。いや、それ以上もそれ以下のものがあったら教えて欲しい。それほどまでにおいて、ついでという言葉は利便性のあるものなのか。いや、そうではあるが――。
フレイヴとカムラは思う。クルレラの言うついでとやらは大き過ぎないか、と。いいや、「大き過ぎないか」ではない。「大き過ぎる」のである。そこの訂正をよろしく。
さて、本命の依頼よりもついでの依頼内容に圧倒されながらも、フレイヴは断らなかった。どちらにせよ、彼にとってナズーという存在はこの世で寛容しがたいものなのだから。ナズーが存在する原因を探る。その理由もあってである。
「って、フレイヴ!」
クルレラと別れて、そのまま町はずれにある神殿の方へと行こうとするフレイヴをカムラは呼び止めた。彼女は焦りを見せているようだ。
「ちょっと、まさかとは言うけれども、ついでの依頼を受けるつもり?」
「まあ、ついでだし」
「そのついでの内容わかってんの? 買い物行ってきて、のレベルじゃないんだよ? 今から頑丈な家を建てろっていうレベルだよ? 大工でも玄人レベルじゃないと難しい家を建てろって言っているんだよ? ついでのレベルって軍隊一個なきゃヤバいやつじゃん。あれ、そう考えると家を建てる方が楽そう? ンなわけない。つーか、変なこと言わせないでくれる?」
「家を建てるたとえを言ったのはカムラだろ」
何を勝手に責任なんか押しつけてくるのやら。だが、カムラが言いたいことはわかる。フレイヴ自身の実力のことだ。彼が一、二回とナズーとの戦いにおいて勝利を掴み取ったとしても、その経験が今回のナズー討伐につながるとは限らないのだから。それでもフレイヴはクルレラのついで依頼も受けようとした。その理由は――。
「だって、見ず知らずのぼくたちにご飯と寝床を提供してくれるんだろ? いい子じゃないか」
「いやいや、いい子って……」
それは、つまりフレイヴ自身もいい人であるということにもなる。というか、それで決める基準判定が甘過ぎやしませんかね。そんな簡単に信じるんですかね。流石はピュアですね、こんチクショウ。なんて言いたかったが、飲み込んだ。その代わり、町の広場の方をあごで差す。
「別にいいけどさ、行く前に町の人たちから情報収集しておいた方がいいかも」
「うん、わかってる」
そんなフレイヴはどこか自信満々の様子であったのだった。




