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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第四章 アルバイト依頼とそのついで◆
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42ページ

 戦友軍。本物を見たことはないが、噂には聞いたことがある。非国家的組織だ。彼らは国の軍と少しだけ似ていて、ナズーを倒すためだけに結成された。その組織の本部は新王国の北西に位置する『英傑の町』にある。そこをフレイヴとカムラが徒歩で向かうには相当の時間がかかっていた。そして、何よりお金の問題もあるのだった。


「遠いなぁ」


 今現在二人がいる場所は英傑の町から数十キロ離れた『通りすがりの町』である。ここはやや大きめの町のようで、露店も構えられている。町中は賑やかのようだ。ようやく半分の道のりを歩いてきてもなお、カムラがの愚痴をフレイヴは宥めた。


「まあ、まあ。今日はここで一休みしよう。周りに人はいないよな?」


「そーだなぁ。あたしが本に変身するためだもんな」


 宿屋に泊まるに至って、カムラは本の姿になるのが当たり前になってきたようだ。それもそのはず。彼らは金持ちではないため、宿泊費は基本的に一人分しか用意ができない。それに、節約として食事も大抵が自生している植物だったり、動物を仕留めたりしているのだ。食事に関してはカムラ自身だって美味しいものを食べたい。食欲というものがあったとしても、こうするしかなかった。こうしたことによって二人のプライドが傷付くなどということはないのだが。それでも彼女は特に大衆食堂などで食事をしたいに決まっていた。だが、自分はフレイヴよりも一文なし。こればかりはすぐに諦めがつくようである。


「あーあ、香辛料が利いたモノ食べたいなぁ」


 カムラが大きなため息をついたときだった。前方不注意という言葉が正しいというように、何かに当たってしまう。人か? 少しだけびっくりしたカムラは「すいません」と素直に小さく頭を下げる。ぶつかった相手は自分たちよりもいくつか年が離れた女の子だった。これでも謝罪をした方。それなのに、その女の子は「本当にすみませんって思っているの?」と白い目を向けてくる。


「そう思っているなら誠心誠意を込めて謝って欲しいよ」


 まあ、なんという小憎たらしいガキなんでしょうこと。カムラのこめかみには青筋が浮き立つ。まだキレるべきではない。相手は年下だ。こちらは見た目が十六歳以上の少女に見えても、中身はフレイヴよりも大人だ。耐えろ、耐えるんだ。


「ごめんねぇ、お嬢ちゃん」


 怒鳴り散らしたい気持ちを理性で抑えつけて、女の子にもう一度謝罪をするのだが――。


「頭が下がっていないよ」


「ンだと、クソガキがっ!」


 我慢限界による怒号。周りにいる誰もが怪訝そうにこちらを見てくる。どうしてカムラは沸点が低いのだろうか。フレイヴは頭を抱えながら「カムラ」と小声で今にも掴みかかろうとしている彼女を止めようとする。


「相手は年下だよ」


「わかってるんだよ、こっちはァ!」


 ダメだ、これは。完全に自分が女であることを忘れて素を見せているではないか。というか、傍から見ればどう見えているのだろうか。自分たちはあやしい人物に見えるのか。そうと考えるならば、フレイヴは「ごめんね」と自身も女の子に謝った。


「それじゃあ、ぼくたち先を急ぐから」


 フレイヴは憤怒しているカムラを引きずるようにして、その場を退散しようとするのだが「待って」と女の子が呼び止める。


「お兄ちゃんたち、アルバイトしない?」


 女の子の発言である「アルバイト」にフレイヴの足は止まり、カムラは暴れようとする体を止めるのだった。こちらを見てくる彼女は年相応の笑顔を見せる。にんまり、と小さな歯を見せびらかしながら。

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