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新王国軍は国民が知らないようなナズーの情報を持っている。その話を聞いて、カムラは片眉を上げて調査員を見ていた。一方でフレイヴも少しだけ訝しげである。
「それ、確かなの?」
「うーん、絶対というものではないですね。いかんせん、私はナズーに詳しいわけではないので」
それでも、この情報はとてもありがたいものであるのは事実。二人は顔を見合わせた。調査員が言いたいことは、ナズーを知りたければ新王国軍を訪ねろということ。それは是非とも行って確認をしたいのだが、同時に勘弁して欲しかった。彼ら――特にフレイヴは軍の事情聴取から逃げてきたのだ。これは立派な軍務執行妨害になりえるだろう。
もしも、二人が新王国軍へと赴いたら? 間違いなく、カムラとは離れ離れなはず。ずっと、一生。絶対に軍は彼女の不思議な力を利用したがるに違いない。こうしてナズーを倒せる武器に変身できるのだから。彼らは欲しがるだろう。もちろん、目の前にいるこの男性だって――。彼は国の調査員だと自称していた。これが本当であるならば、危険性はある。
じっと調査員の顔を見るフレイヴ。そんな視線に気付いたのか「どうしましたか」とたじろぐ。それもそうだ。フレイヴはナズーの血に塗れているのだから。
「あ、あの、役に立つような情報を提示できなくて、申し訳ありませんっ!」
この視線、逆に脅しをかけているようだった。あまりいい気分ではないな、と思いながらも「こちらこそ、すみません」と反射的に謝罪する。
「別に怒っているんじゃないんですよ。ほら、ここって遺跡でしょ? ぼくたちみたいな一般人が立ち入ってしまったから、むしろそっちの方がちょっと怖い、なんて……」
少し無理のある言い訳か。隣に立っているカムラは何を言っているんだ、という目を向けているのがわかる。わかった、わかったからそんな目を向けないでくれ。こっちだって、必死に敵意を隠しているんだから。なんて彼女に目線で訴えを返していると調査員は大きく頷いた。
「ああ、それならば問題ありませんよ。どちらにせよ、あなたたちは私の恩人です。あなたたちがここに来なければ、私はここでナズーになっていたか、餓死するだけでしたので」
調査員はこのことを口外しないという。二人はそれを疑心に思っていたが、信じるしかないだろう。不安はある。表向きは言わないと約束し、実際は報告する可能性を。しかしながら、フレイヴは「わかりました」と無理やり自分を納得させた。いささか強引ではあるにしろ、調査員は悪い人ではなさそうに見えたからだ。たかが、見た目の判断。そうであっても、ここに留まるわけにはいかなかった。とにかく、情報屋から知っていることを聞き出さなければ。
フレイヴはカムラを連れて遺跡を後にした。情報の町へと戻る途中、彼女は「いいんだ?」と訊いてくる。そのいいんだ、という言葉はどう捉えるべきだろうか。いや、あまり深くは考えたくない。それだからこそ、彼は「うん」と小さく答える。
「ともかく、ぼくたちがナズーを倒したという事実は変わりない。町に戻ろう」
倒した、という証拠はある。なんならば、証人もいる。二人は証拠品であるナズーの目玉を情報の町に持ち帰るのだった。




