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フレイヴとゾイが住む村のはずれの青色の小屋で見つけた赤い本。その正体は元男だった少女である。彼女は自身のことを『カムラ』と言っていた。これは一応彼女の名前を差すらしい。この、一応という言葉が引っかかりを覚えるのだが、カムラは「気にするな」の一言で済まされた。そのため、二人は気にしようとしなかった。いや、気にしてはいけないのかもしれない。それでも、よくわからない謎の人物を連れてきて、自分の母親はどう思うのだろうか、と少しばかり不安になっていたのだが――フレイヴの母親は全く気にすることもなく「あらあら」とだけ。すべての事情を話しても「あらあら」の一言で済まされてしまった。
「それは、それは……大変だったわね」
しかし、残念なことにフレイヴの母親は全く気の毒そうな顔を見せてはいない。おそらくではあるが、カムラの説明していること、自分の言っていることを何かしらの冗談だと思っているのだろう。先に言っておくが、フレイヴは彼女の発言をすべて信じていた。なぜならば、目の前で本の姿になったりしているのをこの目で見たからである。もしかしすると、母親にもそれを見せれば、本気で信じてくれるだろう。だとしても、二人ともそのことを言おうとはしなかった。カムラは上辺だけに過ぎないが、言葉だけで十分として信じてはいるのだ。というよりも、フレイヴ自身、後ろめたさがあるから見せようという提案を持ちかけるのだが「嘘ついていないからいいじゃん」と言われてしまった。もっともではあるが、納得はいかない。心の隅でもやもやは募るばかり。
「お腹空いたのね。何か作るから、待っていてちょうだい」
カムラとゾイはダイニングテーブルに座って料理ができるのを待ち、フレイヴと彼の母親はキッチンに立った。彼が根菜の皮をむいていると「フレイヴ」そうなぜかしら母親はどこか喜々としている。
「あの子、どこから来たの? 村じゃ見掛けないけど」
「言っていたじゃん。その黒の王国っていうところからだって。ねえ、なんでこっち見ながらにやにやしているの?」
「あら、だってあんた普通、女の子にここまで優しくしたことがないでしょ」
「えっ、いや、カムラは元々男だって」
「何ぃ? 気の強い子が好み?」
恥ずかしいことをここで言わないで欲しかった。向こうで料理を待ち詫びているカムラたちに聞かれたくなかったから。それだからこそ「もうこの話は終わり」と強制的に終了させた。それでも母親は色々と話を訊きたいのか、カムラに「ねえ」とフレイヴに訊いたことを繰り返し質問するのだった。
「カムラって、黒の王国っていうところから来たって聞いたんだけど」
「そうですね。でも、安心したっス。ないって聞いて」
「えっ、でも困るでしょ? 帰る場所がないのよ?」
「構わないですよ。黒の王国を亡ぼすのがお、あたしとあたしの友達の狙いだったんですから」
フレイヴの母親は何かの冗談だろう、と「そう」とだけ言葉を返すのだが、フレイヴはその話すらも信じた。なぜならば、カムラの目は嬉しそうにしていたから。物騒な発言にここまで本気な表情を見るとは思わなかったのだ。それほどまでに『黒の王国』という存在を彼女は邪見にしていたのか。聞いたことのない国の名前を持ち上げて。それにあんな場所に、本になって――カムラは一体何者なのだろうか。