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足がやられたとて。片足だけが切断されたとて。完全に動けないのではない。それをフレイヴもカムラも重々承知していた。わかっているからこその、次の一手。間を空けてはいけない。ここで勝機を覆されては困るのだから。それだからこそ、彼女の指示を待たずして動いた。彼の濃い青色の目に映っているのはもう切断された左足ではない。視線の先にあるのは――。
「次は――!」
――どうせ、理性はない。ただの、そこら辺の暴れん坊が人の言葉を理解できるはずもない。だから、追い打ちをかけてあげよう。ぼくの心と同じように。
一個人の逆恨みという表現が正しいか。フレイヴはナズーのもう片方の足である右足に着目していた。そう、ここを切り落とそうというのだ。このバケモノの硬い皮膚をいとも簡単に貫いてしまう剣で。これは魔法の剣ではないか、と思った。見た目は普通の金属の物なのに。いや、それ以前に金属がこうしてまとわりつくような光を帯びるはずがないのだ。なんともおとぎ話に出てきそうな不思議な剣。
ナズーの右足に対して、力を込めながら勝手に決める。いかなる者であろうとも、この摩訶不思議な剣を――カムラを渡すまい、と。それはこの世界におけるナズーの謎が解けようとも、二度と戦いの日が来なくとも。自分の死が訪れる以外は――絶対にだ。
自身の足が両足とも切り落とされたことにようやく気付き、ナズーは叫びを上げた。その叫び声は切断されたときよりも凄まじく、ボロボロの壁や床が破壊されそうなほどだ。いや、もうそのせいで壊れているようだった。二人が動いた結果、その跡があちらこちらに見えている。
だけども、構うものか。ここで動きを止めていたら、本能がまま動こうとするナズーの攻撃を直に受けてしまうだろう。だからこそ、ここで立ち止まるわけにはいかない。手を止めるわけにはいかない。同情するな、ナズーの感情に反応するな。そんなものただの道端に落ちている石ころなのだから。狙うは足が動けなくて、表情を歪めているナズーの顔面。どこに脳があるかなんて知らない。どこが致命傷になるかなんてどうだっていい。
「お前らがいなくなればっ!」
この世は誰もが幸せになれる、と断言できる。フレイヴはナズーの顔面に向けて、カムラの剣を突き刺すのだった。
<N345.寒冷の月 第8週目と2日>
私は国の調査員として、この遺跡に派遣された。
遺跡と言っても、そこまで重要な建造物ではないのは明らかである。
それでも国からの命令だ。逆らうことはできないだろう。
<N345.寒冷の月 第8週目と4日>
調査を開始して二日が経った。
建造物に関して不可解なことはなくとも、時折幻聴が聞こえるようになった。
しかし、ここは私以外誰もいないのも事実だ。
<N345.寒冷の月 第9週目と2日>
ここへ来て一週間が経つ。
相変わらず、私の体調は不良のようだ。それでも一週間経てば、ここから出られる。
もう少しの辛抱だ。
<N345.寒冷の月 第9週目と6日>
ここ最近、悪夢を見るようになった。
暗闇の中でずっと「これじゃない、そうじゃない」と男の声が聞こえるのだ。
それもあの幻聴と同じ声。どこか怒っているようで、悲しそうにも思えるし、寂しそうにしているようだ。
どうも私までそう思ってしまっているらしい。なんとかならないだろうか。




