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考えることも大事だが、行動することも大事であることを忘れてはならない。昔、父親に言われたことがある。思考を巡らせることが大事であることには変わりないが、結局「どうするのか」という問題を解決するには『行動』が必要なのである。そのため、ナズーと対峙しているフレイヴは淡い光を帯びたカムラの剣をしっかりと手に握り、構えた。いつでも攻撃が来てもいいように、相手を見据える。
ほら、拳がやってきた。これを避けるか、それとも防御に入るか。その答えは避ける。避けた先のことも考えろ。その先には何がある? 何もないか? それはないだろう。ありえないだろう。追撃があるはず。それをどうするか。そのままだとやられてしまうぞ。やられる前にやれば申し分はない。だが、フレイヴにそんな芸当ができるとは到底思えない。だから、追撃をかわし続けろ。ナズーが攻撃をし始めたら、止まらないと思え。こちらの動きは止めなければ、来るぞ、来るぞ、来るぞ。避けろ、避けろ、避けろ。とにかく避け続けるんだ。そいつの拳に何も触れるな。自分の体も、あたしの体すらも。
カムラは何も言ってはいない。だが、言いたいことが十分にわかっていた。剣から手へと伝わる情報と言うが正しいか。そのようにして彼女からの指示が来ている気がした。別にカムラがこちらに逃げろ、あちらに逃げろと引っ張ろうとはしていない。フレイヴは彼女の心の中から聞こえてくる指示の通りに動いているだけ。思いを聞かずとも受け入れるだけ。
とにかくナズーからの攻撃を避ける。これを徹底した。この真っ黒なバケモノの攻撃を防御態勢で受けたとしても、吹っ飛ばされてしまうことを知っている。体験している。その経験を基に動く。そして、カムラは口に出さずとも心で指示を出す。
拳から逃げた先には何が見えてきた? 四足歩行、二足歩行の生き物にとって、致命的な攻撃ってなんだと思う? フレイヴとナズーの体格差はどれぐらいあると思う? それがわかれば、あとはきみ次第。
大きく振りかぶって、巨大な拳から逃げた先にフレイヴは見た。防御すらしていないナズーの醜い脚が。それが届かないわけではない。カムラが言いたいことを理解できないのではない。彼女が自分に託したこと。それは――ナズーの足を切断することだった。どんな生き物でさえも足を使い物にできなければ、移動することは不可能。こちらに対して近付くことすらもできないだろう。それはすなわち、足がある相手に対しての勝利の確率が低くなるということ。
フレイヴの目には隙だらけのナズーの左足しか見えていなかった。もちろんナズーが、彼が今からしようとしている攻撃を防御することも、回避することもできずに。広間に肉が削がれる音と、その削がれた肉が下に音を立てて落ちる音をそのバケモノはただ耳に聞き入れるしかできなかったのだった。




