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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第三章 願いと意思◆
35/263

35ページ

 ほとんど無言状態と言ってもいいだろう。それほどまでにフレイヴとカムラの間柄は気まずかった。特に彼女は余程の自信があったに違いない。自分が持っていた情報をすべて情報屋に提示することなく、ナズー退治をする羽目になってしまったのだから。二人は町中の階段の段差に足を投げ出して座っていた。


「ンだよ、あの親父」


 ようやく口を開いたかと思えば、今のカムラは素になっているようだ。口が悪いし、情報屋の対応に納得がいっていない様子である。


「人がせっかく、重要な情報を垂れ流してやろうとしていたのにさぁ」


 それは『神様の日記』のことだろうか。フレイヴはそれが気になっていた。「ねえ」と話しかける。


「『神様の日記』って何? 神話? それともおとぎ話?」


「神話っちゃ、神話。だけれども、その存在を知っているのはあたしくらいなもの。あとは強いて言うならクラッシャーもだね」


「何か関係があるの?」


 これにカムラはそうだ、と肯定した。フレイヴが知ろうが知るまいが言うことをためらっていたのだが――こうして自分の目的を手伝ってもらっているのだ。話したって、何の不備もあるまい。そう思ったのか「あのさ」と後ろ頭を掻いた。


「あたし、言ったじゃん? クラッシャーは世界の歴史や事実を捻じ曲げた最低最悪クソ野郎で、更にカスを足した大ばか野郎って」


 後半は初めて聞くのだが。それでもフレイヴは小さく頷く。それを待っていたかのように、カムラは言葉を続けた。


「あいつ、その捻じ曲げに『神様の日記』を使っているんだよね」


「神様の日記って、カムラのこと? カムラって本にもなるし、剣にもなるよね」


「いや、あたしのことじゃないよ。あたしは運よく取り戻せただけ」


 運よく取り戻せた? それはやはりカムラ自身が変身する本のことだろうか。そう訊くも、首を横に振って否定した。違うらしい。


「フレイヴに会う前はあたしが持っていた。それにあたしは本にも剣にもならなかった。ていうか、ありえなかった。あの小屋で目を覚ましてからはどうも、これまで知っていたルールがごちゃ混ぜになっているみたいでね」


 曰く、最初にクラッシャーが事実改変のために、神様の日記を持ち出したそうだ。そして、偶然にもそれを取り戻すことに成功し、あと一歩の寸前でクラッシャーを倒すどころか殺されてしまった、と。


「ンで、なんでか全く知らない女の子の姿になっての、この世界だからなぁ」


「もしかしたら、この世界にナズーがいるにも、カムラが知っていることが大きく変わってしまったのも、クラッシャーがそういう事実にしてしまったからじゃないのかな?」


「もう、そうとしか考えられない」


 確信的とまではいかないが――どちらにせよ、あの赤い髪をした男がこの世界の謎を解く鍵を握っている可能性は高い。それは頭のオカシイ人ではなかった場合としての仮定になるのだが。まずは逃げた男の行方を知るために、その情報を得るために、西にある遺跡でナズーを倒さなくてはならない。情報屋は真っ黒バケモノを退治したらば、情報を与えると言っていたのだから。ここでため息をつくよりも、行動を起こさなければ。

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