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「頼むから町の人と問題事を起こさないで」
フレイヴはため息をつきながら、全くの反省の色を見せないカムラにそう忠告する。彼女は口を尖らせて「はいはい」と返事をしているが、絶対に言うことを聞くとは思えない。返事は「はい」の一回だけでしょうが!
最初、二手に分かれてナズーや村はずれにあった青色の小屋に現れた男の情報をここで探ろうと考えていた。だが、カムラの単独行動は危険かもしれない。彼女の性格上の話である。フレイヴの場合は相手に対しての喧嘩腰は一切ない。そもそもが争い事が苦手でもあるから。というよりも、この町の人たちのほとんどはおっかない人たちばかり。だからこそ、下手に口出しもできない。平たく言えばヘタレ。一方でカムラは先ほどの顔が怖いおじさんとの睨み合いを起こしたばかり。手が早い人物なのだろう。というよりも、人を全力で煽ろうとするその精神。すごいのだが真似はしたくない。あとが怖いもん、とヘタレのフレイヴは思う。そんな人を怒らせようとすることが得意技と言わんばかりの彼女は「ところでさぁ」と話題を変えようとする。
「ここが情報の町って言っても、どこで情報を仕入れるの? そこら辺のおっさんたちに訊くの? そーんなんで、確かな情報が得られるなんて、思わないけど」
「適当なおじさんたちに話を訊くんじゃないよ。ていうか、その発言。聞こえていたらどうするんだよ」
「構わない」
対立上等。カムラは周りにいる人たちに向かって全力で煽ろうとする。止めて欲しい。そんなにあのおじさんから睨まれたようにして見られたのが気に食わなかったのか。気が短いな。見た目は自分と同い年に見えるのに。彼女の話を聞く限りだと、自分より遥かに年上なのに。子どもか。というか、それ以前に話が脱線してしまっている。フレイヴは軌道修正をかけるために、少しわざとらしい咳払いをした。
「一つだけお店を知っているんだ」
店を知っている。その言葉にカムラは片眉を上げた。フレイヴが言うに自分たちが知りたいという情報を扱っていそうな店らしい。そんなものがあるのか、と納得したのか感嘆を上げた。
「フレイヴってこういうのには疎いと思っていたんだけど」
作戦を想像するに、片っ端から誰かに訊くという作戦だと思っていた。もしかして、フレイヴの知り合いがこの町にでもいるのか。なんて軽い気持ちで訊ねていたのだが――違う、と彼は否定した。
「ぼくの家だけじゃないけど、自分たちにとって不利になる情報を売って、お金にするところは少なからずあると思うよ」
「え?」
フレイヴが案内した場所、そこは昼間から酒盛りをする男たちがいる酒場のような店だった。そこのカウンターの向こう側には隻眼で背の低い男が「いらっしゃい」と言う。
「ここに来るのは何年ぶりだ? 息子の方も金がなくなったか?」
「…………」
店主らしき小柄の男を見て、フレイヴは何を思うのか。




