29ページ
人が勝った。ただの心優しい少年がバケモノに勝った。そこら辺に転がっているような、ただの金属の武器では勝てないバケモノにだ。金属の刃が皮膚を通さないようなあの怪物を、だ。
そんな現状を目の当たりにして、ただの心優しい少年は目を丸くしていた。視線の先には上と下が分かれたナズーの死体。カムラ自身もびっくりした、というのかは定かではないが、剣の姿からいつもの少女の姿へと戻った。
「ぼく、倒した?」
人間の姿に戻ったことにより、フレイヴの両手は空いた。その手をじっと見つめる。強く握っていたせいか、手の平は赤い。その呟きに頷く。嘘ではないのだ。ここに証人はいる。きっちりとこの目に焼きつけたのだ。きっかりと自身の刃でナズーの胴体を掻っ捌いたのだ。忘れるはずもない、この感触。
カムラは安堵の表情を見せる。そして、納得するのだ。フレイヴにすがってよかった、と。彼女はフレイヴの方を見た。彼はまだ驚いているようで――いや、この状況をどうしたらいいのかわかっていないようだ。ナズーの死体を見てうろたえているのだから。
「フレイヴ」
落ち着かせようと、声をかけた。その一言によって、フレイヴは肩を強張らせる。カムラの真っ黒な目が真っ直ぐと彼の目に差し向けられた。二人の目がぶつかり合ったのである。
「多分、だけれども……」
これはただの憶測にしか過ぎない。それでも言葉を続けたかった。自分の思いの丈をフレイヴに伝えたかった。
「あたしと一緒にいる限りはナズーが一生ついて回ると思う。でも、それでも構わないというならば――」
一瞬だけためらう。それでも、言わなければフレイヴは何も知らないまま一生を過ごすかもしれない。何も知らないままナズーになってしまうかもしれない。だから、言わなければならない。
「一緒に戦って欲しい」
独りではできないと知っている。わかっているからこそ、目の前にいる一人の少年に乞うのだ。この世界を救って、と。それに対するフレイヴの返事は――。
カムラの唐突なお願いに戸惑っていた。どう答えたらいいのかわからないらしい。だが、ややあって一つの答えを導き出す。「もちろん」と。
「きっと、ぼくだけじゃあ、ナズーの正体を解き明かすことはできないと思う。だから、カムラも一緒にナズーの正体を突き止めて欲しい」
右手を差し出した。それは別にカムラに剣の姿になって欲しいわけではない。これはただの友情を表す証だ。決して偽物ではない。差し伸べられた手。これに彼女は自身の右手で返事をするのだった。
それぞれの目的は決まった。それぞれの立場と共に過ごす理由も明確になった。残りはこの世界における謎を解明するだけだ。




