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大切なものを取り上げられた哀れな少年、フレイヴ。そんな彼をカムラは同情するしかなかった。それにあやかって、一つの決断を下す。それは何も持たない、何もできないただの独りぼっちの少年を慰めること。ただ、慰めを口に出すだけではどうすることもないし、それで救われるわけでもない。
それならば、少年の願いを自分自身も願おう。ナズーがいない世界を望むフレイヴに、自身もそう願おう。だが、所詮はただの願望。願うばかりでは本当に叶うはずがない。それならば? ああ、そうだ。「この世界で事実を捻じ曲げるような状況ができたらいいのに」と願った。いや、願っていた。それがないから。それなければ、自分の最大の敵に勝てないと思っていたから。そう、人の強い想いとやらは運命を変えることだってできるはず。
フレイヴは――彼の心からの思いは永遠と続く世界をいつか変えることがあるかもしれない。この世界にはびこるナズーというバケモノは――おそらく、自分が追っているクラッシャーの手下でもあるかもしれない。二人の目的は合致しているかもしれない。しかし、 カムラが考えていることと彼の意思とは関係ないかもしれない。それでも彼女は口にするのだった。
「お願い、フレイヴ。あたしと一緒に『戦って』」
「戦え」と命令しているわけではない。「戦わなくちゃ」と促しているわけでもない。これは単純に、一人の人間としてのすがりである。フレイヴが手にしていた剣の刃は淡くて美しい光を帯び始めた。それはまるで、カムラの生命の火とも言えそうなほどだ。二人の眼前にいるナズーは明らかに、この光に見惚れていた。先ほどまでは何がどうなろうと『破壊』を目的として動いていたのに。こんなおぞましいバケモノも触れたいほどの美しさがこの世にあるとは。
これは好機ではないだろうか。カムラはそう思った。今ならば、倒せるはず。
「フレイヴ」
フレイヴに呼びかけた。これに、少しだけびっくりしたように、剣を強く握り直した。涙で濡れた頬を袖口で拭う。そうだ、こんなところで嘆いている暇はない。やらなければならないことがあるんだ。
大きく息を吸うと、ナズーに向かって駆け出した。その綺麗な光が動き出したことにより、バケモノはワンテンポ遅れながらも我に戻った。そして、巨大な拳を振り上げようとするが――遅い、の一言に尽きる。
一閃する光。普通の刃で通るはずのない、ナズーの硬い皮膚。だが、この剣だけは――光り輝くカムラの剣だけはそれを一刀両断したのだった。これぞ、これまでのこの世界の歴史を塗り変えた瞬間でもある。
――フレイヴが一緒にいればきっと……。




