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しつこく戦いを挑んでは勝利などなかった。挫き、咎めによって自分の思い描く戦いができなかったと言えば、そうだ。だが、今回は戦う。何がどうなろうと。死ねないから。フレイヴは大きく剣を振りかざす。そして、その刃をナズーの真っ黒な体躯に落とそうとするのだ。以前は手首を切断するのがやっとだったが、それだけでは終わらせる気はない。完全討伐。それが彼の狙い。
ナズーの体は頑丈で剣の刃すらも通すのは難しいのである。現に拝み打ちしたとき、攻撃が浅かった。じんじんと手が痺れる。そんなもの知るか。絶対に倒してやる。ぎろり、とフレイヴの目がその姿と剣の姿になっているカムラを捉えた。
――まだだ、もう一度。いや、それ以上の攻撃を与えないと無理だ。こいつのせいでっ!
手の痛みなど気にすることなく、攻撃の手を止めようとしなかった。それがたとえ、相手に効いていなくとも。これぞ感情的。フレイヴの怒りと悲しみの火は消えそうにない。心の奥から、腹の底からその思いはあふれ出てくる。これらは口から外に出てきた。
「ぼくは残されたっ!」
気がつけば、自身の頬に一筋の涙が伝うのだった。ナズーを何度も攻撃している内に、いなくなってしまった人たちのことを思い出してきたからだ。そう、自分は残された。いや、残ってしまった。本当はみんなと同じくしてナズーとして生きる方がまだマシだと思えたのだ。軍に殺されるかもしれない。人として生きられないかもしれない。そんな現実が目の前に飛び込んできたとしても――。
そちらよりも寂しいし、つらい。この気持ちは十分に、カムラに伝わっていた。それだからこそ、彼女はどうすることもできない。何もフレイヴの行動を制限できない。ただ、傍観するしかない。一人の少年の哀れな人生に。
「お前が元人間か、ただのバケモノかは知らないっ! 知りたくもない!」
体が硬くて、攻撃が通っているかわからない。そのせいで柄を握っている手の感覚がないに等しかった。
「だけれどもっ!」
ぼたぼたと大粒の涙が剣にこぼれ落ちる。その涙が教えてくれる感情がカムラの胸に押し寄せてきた。
「ぼくから大切なものを取り上げたという事実は変わりない!」
そうだ、大切なものを取り上げてしまった。事実だからこそ、否定はない。それが真実だからこそ、どうすることもできない。この世はなんという理不尽の塊でできていることだろうか。誰一人として報われない。幸せにできない。悲しみが連鎖し、ループする世界。誰か、この永遠に変わりそうもない世界を変えてくれないのだろうか。誰か、誰か――。
――いるはずがない。だったら、ぼくが変えてやる。この世界の歴史を。永遠に続くクソッたれな世界を――。
「ナズーがこの世界からいなくなってしまえばいいのにっ!」
その途端、フレイヴが手にしている不思議な剣は淡く光り出すのだった。




