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全く、世の中というものはなぜにタイミングが悪過ぎるのか。こういう重要なときに限ってナズーは必ずと言っていいほど現れる。それが一番腹立つ。邪魔をしにきていることを理解していないこのバケモノは目を血走らせ、大きな拳でこちらに殴りかかってきた。攻撃は見えなくはない。むしろ、大振りだからこそ逃げる余裕は存在するのだ。それなのに、フレイヴは避ける間もなく剣で防いでみた。そして、少しだけ後悔する。どうしてその行動を取ったのかを。
「う、いっ!?」
自身の戦闘力量は存じている。相手の戦闘能力も理解している。それでもこの頭と体の意見が一致しなかった。だから、剣身で受け止めた巨大拳に吹っ飛ばされたのである。自分はばかだなと心の中で嘲る。何しているんだか。あまりの勢い余り過ぎて――調査をするために青色の小屋へとやって来たのに。フレイヴが飛ばされた先はその小屋だった。これがかなりの年数物だということは一目見ただけでもわかっている。そのため、扉にぶつかった瞬間、何かがへし折れるような音と共に扉が壊れてしまった。それにぶつかり、ややあって、奥の壁に激突する。壁こそは壊れはしなかったが、今にも倒壊しそうな軋む音が耳に入り込んでくるのだ。
「うぅっ……」
背中と腕が痛い。呼吸がしづらい。それでも立て。立たねば、ナズーにやられてしまう。剣を杖代わりにして立ち上がろうとした。見かねたカムラは「大丈夫?」としか声をかけることしかできない。
「まだ一体だけだからいいけど、増えたら勝てっこない」
「し、っているよっ」
ほぼ気力のみで立ち上がっているに過ぎない。だが、ここで諦めては死ぬまで一生ナズーとして存在しなくてはならないのだ。そんなのは嫌だった。両親が、大切な人がどうしてこんなバケモノになってしまったのか。その理由を知りたいのだから。だが、知りたいとばかりに心や頭の中で思っていても、結局はそれだけ。まずは戦うことをしなければならない。ここに逃げ道なんて存在しないのだ。なぜって、フレイヴ及び、カムラがいる場所は小屋の中であるから。しかも今にも倒壊しそうなほどだ。
ナズーは青色の小屋が壊れるなんて関係なしに、フレイヴのもとへと歩み寄る。一歩近付いてくる度にこの建物の天井が、壁が崩れ落ちそうだ。それでも、どうにか骨組みたちは踏ん張りを利かせて残ろうとしている。なぜだか、バケモノのその足取りはこれから自分にやられる少年に対する哀れみを帯びているようだった。
それがどうした。知るか。やられてたまるものか。しっかりと両手で剣を握って構えた。日に当たらない薄暗い場所から外にいるナズーに向けられた表情はわかりにくい。
一歩足を動かしたナズーは偶然にも刃が日の光に反射して眩しそうに目を細めた。まるでそれが合図かのように動き出した。体中が痛い。しかし、やらなければならないことがある。二つの思いを頭の中で葛藤する。どちらが大切なのか。
そんなの、決まっている。フレイヴは声を張り上げながら、大きく剣を振りかざすのだった。
――今のぼくのためだけじゃない。未来のぼくのためでもあるんだ!




