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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第三章 願いと意思◆
25/263

25ページ

「悪いが、お前は俺を殺せないだろう。そして、俺もお前を殺せないだろう。永遠にな」


 自分たちの目の前に現れた謎の男がそう言った。フレイヴにとって、この男の発言が理解できなかった。いや、言っている意味そのものはわかる。それを踏まえた上で――。


「どういう意味ですか?」


 意味不明だったからだ。この反問に対して、男は「さあな?」と明らかに弄んでいる様子。


「それがわかれば、拍手を送ってやるよ」


 またか。拍手なんて要らないのに。こちらをからかっているのか。だとするならば、こいつの目的とは? 謎だし、あやし過ぎる。あれか? こちらが男を殺せないとするならば、自分は強いと自負しているということか? 自意識過剰も甚だしい。それに、こちらも殺せないと口にしていた。そこだけがちょっと意味がわからない。あれか? 頭がおかしい人として見るべきなのか。いずれにせよ、この場所にいる理由の疑問は晴れていない。一応、会話ぐらいはできていることに関しては安心しているフレイヴ。


「そんなの要らないです。ぼくはナズーがどうして見境なく人を襲うのかが知りたいだけなんです。あなた、何か知っているでしょう?」


「知ってどうする? 怒るか? それとも悲しむだけか?」


「もう十分に怒っているし、悲しんでもいます。大切な人たちがナズーにされてしまったんです」


 もしも、時間さえ止まってくれれば。一発だけ男を殴りたかった。そこまでして、フレイヴの怒りは沸々とたぎっているのである。そんなことを知る由もない、と言わんばかりに彼はへらへらとしていた。


「それはそれは、お気の毒。だけれども、それがその人たちの運命だったって、考えると当然の結果だよな?」


「ばかにしているんですか?」


 年齢の差なんて気にせずして、敬語を捨てたい。フレイヴは今にも飛びかかりそうである。


「ばかにはしていないさ。ただ、女の躾ぐらいは男であるお前がなんとかしとけって」


 その直後、男が前へと手を突き出したかと思えば――。


「チッ!」


 なんと、カムラは地面に落ちていた石で男を殴ろうと思っていたらしい。石を持つ彼女の右腕を掴んだのである。これに歯噛みをしていた。とても悔しそうである。


「気付いていないとでも思ったか? 残念なことに見えているんだよ」


「はっ! 残念なことにその顔はバレバレ。それで逃げられるとでも思っているの? 思っているなら、ばかだね。ばーか!」


「…………」


 男は掴んだカムラの右腕を突き放すように、手を離した。これに彼女はよろめき、フレイヴと共に地面へと尻もちをつく。二人の様子を見て、肩で笑いながら「お前がばーか」と返した。


「まっ、そんなに焦らずとも、いずれはわかるさ」


 などと、またしても意味深的な言葉を残して、男は逃げるようにしてこの場を立ち去ろうとする。逃がしてたまるか。そんな思いが二人にあったのだろう。カムラはあの不思議な剣の形へと変え、それをフレイヴはしっかりと握った。そして、追いかけようと立ち上がるのだが――それは叶わなかった。なぜならば、二人の目の前に一体のナズーが現れたからである。


――邪魔だっ!

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