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青色の小屋の中から現れた男を見て、フレイヴは「誰?」と混乱をしていた。てっきり、人々を襲うバケモノのナズーだと思っていたのだから。予想外の出来事。仕舞いには本音を口に出す始末。
「誰?」
見知らぬ人物に対しての質問。大半は自分の名前を答えるだろう。だが、その男は「逆に訊くけど」と真っ赤な髪の毛を揺らしながら反問してきた。
「誰だと思う? 答えられたら、拍手をくれてやるけど」
正直言って、拍手は要らないと思っていたが、フレイヴは黙っていた。答えようにも答えにくい雰囲気がこの場に漂っていたのだから。相も変わらず、カムラは現れた謎の男を睨みつけるだけ。まるで、彼に恨みでもあるかのような目付き。大丈夫か、と訊ねようとする前に男が遮ってきた。
「ヒントをくれてやるよ」
「…………」
「俺はお前にとって、敵でもなければ味方でもない。どっちつかずの存在だ」
敵でもなければ、味方でもない? 男の発言にフレイヴは戸惑うばかり。誰だ、本当にこの人は。混沌としたこの空気。それに混ざるようにして、一つの憶測が思い浮かんできた。いや、そうとしか考えられなかった。なぜならば、ここは国が指定した立ち入り禁止区域であるから。この男が軍人だとは到底思えない。佇まいや服装からしてどちらかと言うならば、一般市民という立場にしか見えなかったのだ。しかし、その一般市民がこのような地図上から消された村に足を運ぶだろうか。それもナズーに関係がないと仮定を立てるならば。
もはや、男がナズーに関連のある人物だとしか思えなかった。だからこそ、問う。怪訝そうに眉根を寄せて。そのしわを深く刻んで。
「あなた、こんなところで何をしているんですか? ここは国が決めた立ち入り禁止区域では?」
「ははっ、それはお互い様じゃないか」
もっともである。だが、こちらにはナズーという存在の原因を探りに来たというれっきとした理由があるのだ。そのことについて言おうとするのだが、男はどこかへと行こうとした。いや、これは逃げようとしているのだろうか。逃がすわけにはいかなかった。おそらく、この男はナズーについて何かしら知っているはずだから。
男をとっ捕まえようとした。絶対に逃がさない、と。その服を掴もうとするのだが、ひらり、とかわされた。なんとも余裕ある表情で。それが実に腹立たしいものである。彼は避けて嗤うのだった。
「悪いが、お前は俺を殺せないだろう。そして、俺もお前を殺せないだろう」
――はあ?




