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地図上から町や村が消える。それは国からの立ち入り禁止令が発動するのと同じだった。そして、その元町や村の入口には『立入禁止』という立札がかかる。ただ、見張りはない。当然だ。そこらかしこにナズーがうろうろして危険なのだから。それでも、と誰もが消えてしまった町や村に入らないように軍は巡回している。
カムラはフレイヴの後に着いていきながら呼びかけた。
「もし、ナズーを見かけたりしたら逃げることを徹底して」
「わかってる」
「巡回する軍にも気をつけないと」
「うん」
何度も聞いた忠告。これにフレイヴは少しだけ眉間にしわを寄せた。流石に正面からナズーと戦おうなんて思っちゃいない。軍人たちに勝負を挑もうなんて思っちゃいない。勝てないという己の力量の理解はあるから。ナズーという存在の原因を突き止めるまでは死ねないから。それだからこそ、自分にとって逃げられるような選択肢のある戦闘は避けるべきだ。彼はそこまで単純ではない。
二人は普通に村の中ではなく、村の外を通るようにして、あの青色の小屋を目指していた。村の外からでもわかる、異常な空気。それはナズーがいるという思い込みからきているからだろうか。
鬱蒼とした茂みや木々を掻き分けて、大きな木がぐるりと囲んだ青色の小屋の姿を発見する。あれだけの騒動があったのに、その建物自体破壊はされていない。そして、何よりナズーの気配も感じられないようだった。何かしらの手掛かりがあるといいな。そういう風に思いながら、建物の扉を開けようとしたときだった。
がしっ、とカムラが扉を開けようとする自分の手を掴んだ。なんだ、と彼女の方を見た。彼女は扉の方を睨みつけているではないか。いいや、扉ではない様子。扉の奥――すなわち、建物の中を睨んでいるのだ。もしかして、ナズーがいるとでも? そうであるならば「逃げよう」とすぐに退却させようとしてくるはず。ならば、あのバケモノではないのであれば、何か。フレイヴは頭の中で思考を回す。カムラにとって、自分にとってよくないと思う存在を挙げようとした。それでもすぐには思いつかず――彼女はここから離れよう、という仕草を見せた。もう彼の頭の中はあの真っ黒なバケモノ以外思いつかなかったのだから。
二人が音を立てないように、ゆっくりと後退していたときだった。後方から一斉に鳥が羽ばたく音と鳴き声が聞こえてきたのだ。これにびっくりしながらも――最悪なことに、フレイヴは地面に落ちていた木の枝を踏みつけてしまった。ぱきっ、という乾いた音が足元から嫌に周りへと響いた。カムラの方を見れば、苦虫を潰したような顔を見せているではないか。まさか、この音が小屋の中にいる誰かに気付かれてしまったとでも?
事実、そうだった。青色の小屋の扉は開かれたのだから。しかし、そこから出てきたのはナズーではなかった。現れたのは一人の男である。男はこちらを見ると、不敵に笑うのだった。この男は何者なのか。ここがいくら村はずれだからと言っても、何しにここへ?




